心を寄せるべきは

 パレスチナを代表する詩人マフムード・ダルウィーシュ氏(1942~2008年)は6歳の時、住んでいた村をイスラエル軍に占領され、隣国レバノンに逃れた。村は跡形もなく破壊された▲〈最後の辺境も果てた後に私たちはどこに行けばよいのか/最後の空も尽きた後に鳥たちはどこを飛べばよいのか〉。代表作「私たちのまわりで世界は狭まる」は、故郷を追われ行き場を失った人々の閉塞(へいそく)感や悲しみが胸に迫る▲1948年のイスラエル建国に伴い、75万人のパレスチナ人が難民となり周辺諸国などに逃れた。今では500万人以上に膨れ上がり、数世代にわたる厳しい難民生活を強いられている▲まさかパレスチナ人の苦難を知らないわけがあるまい。このたびのイスラエルとパレスチナ側の衝突を巡り、中山泰秀防衛副大臣が「私たちの心はイスラエルと共にある」とツイッターに投稿して物議を醸した▲イスラエルとパレスチナ国家の共存を求め、双方に自制を呼び掛けるのが日本政府の原則的立場。投稿はパレスチナ側の「痛み」に考えが及んでいない。政府要人として明らかに不適切だ▲今回の戦闘で、パレスチナの子ども66人を含め双方で約260人が命を落とした。心を寄せるべきは、いつも争いに巻き込まれて犠牲を払う罪のない市民たちである。(潤)

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