【安田記念】グランアレグリアまさかの2着 ルメールが感じた異変と藤沢和師の後悔

アタマ差の2着に敗れたグランアレグリアとルメール

6日、東京競馬場で行われた上半期のマイル王決定戦・GⅠ第71回安田記念(芝1600メートル)で、単勝1・5倍の断然人気グランアレグリア(牝5・藤沢和)はまさかの2着に敗戦。後方追走から直線で猛追するものの、8番人気のダノンキングリーにアタマ差及ばなかった。前走のヴィクトリアマイルに続く、GⅠ6勝目を狙った現役最強の女傑にいったい何が起こったのだろうか?

抜群の行きっぷりで道中を運び、持ったままで直線を向いて圧倒的な末脚で後続を置き去りにする――。昨年の安田記念で見せたような、非の打ちどころのないパフォーマンスを、この日は見せることができなかった。

普通の馬ならばタイム差なし(アタマ差)でのGⅠ2着は健闘とたたえられることもある。しかし、オルフェーヴルなどに並ぶJRA・GⅠ6勝目を目指した現役最強牝馬にとっては、たとえ微差であっても“敗戦”の持つ意味は非常に重い。

「手応えが前走(ヴィクトリアマイル1着)とは全然、違いました。スタートからいいポジションが取れなかったし、道中も苦しがっていました」

主戦のルメールが感じた“異変”は最後まで解消されることはなかった。向正面の位置取りは後方から数えた方が早い11番手。鞍上が前進気勢を促そうと手綱を押してもパートナーの闘志にはなかなか火がつかない。

「直線の反応も遅かったので真っすぐ走らせました」。この“真っすぐ”という表現は、いつもなら可能な、外を回す安全策を取る余裕はなく、馬群を突いたということだろう。先行勢をかき分けるように抜け出て一瞬は先頭に立ったかにも見えたが…。スムーズに外を伸びてきたダノンキングリーがひと足先にゴール板を駆け抜けていた。

「ポテンシャルは高い馬ですし、ラストはよく伸びていました」とルメールがたたえれば「まあ、頑張って、しまいはきていたけどね」と藤沢和調教師も“らしさ”をのぞかせた最速32秒9の末脚に一応、胸を張る。それでも前半のレース運びと当事者の感触からは、やはり“本調子”ではなかったことがうかがえる。

「(悪い意味で)余裕があったみたいよ、動きに。いつもの切れ味がなかったというのか…。もう少し調教をしておけばよかったのかもしれない」と指揮官は自ら、調整過程を敗因の可能性のひとつとして挙げた。

東京でのGⅠ制覇は過去2回。その出走間隔と最終追い切りを列挙すると20年・安田記念(中9週)=ウッド6ハロン80・0秒、21年・ヴィクトリアM(中5週)=ウッド6ハロン82・7秒。いずれも時間的猶予があり、最終追い切りで“速く、長い時計”を出して大一番に臨み、そして結果を出してきた。一方、中2週の今回は坂路4ハロン53・6秒。追い日以外にも十分な運動量を消化こそしたが、やはり強行ローテにより時計を出せなかったことが「負け」の真相に近いのだろう。

これまでヴィクトリアマイルと安田記念を同一年に連勝したのは2009年ウオッカだけ。この馬の場合は、栗東からの輸送があるにもかかわらず最終追い切りもウッド5ハロン68・7―11・2秒と“通常モード”を貫いていた。これこそが女傑の女傑たるゆえんか…。

ただし、1分31秒台の決着が当たり前となった現代では、消耗度が格段に増しており同列に扱うことはできない。つまり、昨年のアーモンドアイも2着に敗れた強行ローテでの惜敗で評価を下げる必要はない。「また休んで調整します」と藤沢和調教師は秋までの休養を示唆。疲れを癒やし、英気を養った復帰初戦での快走を心待ちにしたい。

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