2021年1-5月 『後継者難』の倒産状況調査

 2021年(1-5月)の『後継者難』を起因とする倒産は、150件(前年同期比10.7%減)で、前年同期の168件より18件減少した。ただ、全倒産に占める構成比は5.9%(前年同期5.2%)で、前年同期より0.7ポイント上昇し、1-5月としては調査を開始した2013年以降、最高を記録した。
 後継者不在の「後継者難」倒産は150件で、このうち死亡が79件(構成比52.6%)、体調不良が45件(同30.0%)発生、この2要因で『後継者難』倒産の82.6%(前年同期73.2%)に達する。
 代表者の高齢化が進むなか、特に、コロナ禍で業績不振が続く企業は同族継承や後継者の育成など、事業承継が後回しになり、『後継者難』倒産に拍車をかけた格好だ。
 中小企業は、代表者が資金調達や人事、営業方針などの経営全権を担うことが多く、代表者の死亡や体調不良など不測の事態が生じると、たちまち事業継続に支障を来す事態に直面する。
 産業別では、最多がサービス業他の35件(前年同期比29.6%増)。以下、製造業27件(同15.6%減)、建設業25件(同40.4%減)の順。
 資本金別では、1億円以上はゼロだった。1,000万円未満(個人企業他を含む)は82件(構成比54.6%、前年同期88件)で、半数を超えた。負債額別では、1億円未満が106件(同70.6%、同124件)で、7割を占めた。また、業歴別では、1980年代以前の設立(創業)が78件(同52.0%、同90件)で、業歴が長い小・零細企業ほど事業承継問題が深刻なことを浮き彫りにした。
 10都道府県で緊急事態宣言が発令中など長期化するコロナ禍で、中小企業の「社長不足」は倒産だけでなく、廃業への決断を早める可能性も高めている。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年(1-5月)の「後継者難」倒産を抽出し、分析した。

倒産件数150件、引き続き前年同期を下回る

 2021年(1-5月)の「後継者難」倒産は累計150件(前年同期比10.7%減、前年同期168件)で、前年同期を下回った。
 金融機関は財務内容に基づくスコアリングによる審査から、事業性や成長性などを評価する「事業性評価」に取り組み始め、後継者の有無も重要な判断材料の一つとなっている。
 中小企業の多くは、代表者が経理や営業、人事など経営全般を担っている。このため、代表者の高齢化が進むなか、代表者の死亡や病気、体調不良など、突然の出来事が事業継続に支障を来すリスクが高い。
 全企業倒産(2021年1-5月、2,503件)は、コロナ禍の資金繰り支援策に支えられ低水準で推移するが、「後継者難」倒産の構成比は5.9%(前年同期5.2%)と比率が上昇している。後継者不足は、資金繰り支援策や個社の努力で解決する段階にないことを示唆している。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割超

 「後継者難」倒産の要因別では、代表者などの「死亡」が79件(前年同期比16.1%増、前年同期68件)。「後継者難」倒産に占める構成比は52.6%(前年同期40.4%)で、前年同期より12.8ポイント上昇した。  次いで、「体調不良」が45件(前年同期比18.1%減、構成比30.0%)、「高齢」が12件(同52.0%減、同8.0%)と続く。  代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計124件(前年同期比0.8%増、前年同期123件)で、「後継者難」倒産に占める構成比は82.6%(前年同期73.2%)に達する。  代表者の高齢化が進むなか、中小企業では事業承継や後継者の育成が重要な経営課題の一つとなっている。

後継者難

【産業別】10産業のうち、5産業で増加

 産業別では、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、金融・保険業、不動産業、運輸業、サービス業他の5産業で前年同期を上回った。一方、減少は、建設業、製造業、卸売業、小売業、情報通信業の5産業。
 件数の最多は、サービス業他の35件(前年同期比29.6%増、構成比23.3%)。以下、製造業27件(同15.6%減、同18.0%)、建設業25件(同40.4%減、同16.6%)、卸売業21件(同30.0%減、同14.0%)、小売業18件(同10.0%減、同12.0%)の順。
 サービス業他では、「学術研究,専門・技術サービス業」(2→9件)、美容室や結婚式場などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」(2→5件)、「物品賃貸業」(ゼロ→3件)などで増加した。
 また、製造業では、「家具・装備品製造業」(2→3件)、「電気機械器具製造業」(1→2件)などで前年同期を上回った。

後継者難

【形態別】消滅型の破産が9割超

 形態別では、最多が「破産」の139件(前年同期比2.7%減、前年同期143件)で、「後継者難」倒産に占める構成比は92.6%(前年同期85.1%)と前年同期より7.5ポイント上昇した。
 このほか、「特別清算」が7件(前年同期比133.3%増、前年同期3件)発生した。
 「破産」と「特別清算」は合計146件(前年同期比±0.0%)で、構成比は97.3%に達し、「後継者難」倒産のほとんどが消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件、会社更生法はゼロで、後継者不在の企業の再建が難しいことを示している。

【資本金別】1,000万円未満が5割以上

 資本金別では、1,000万円未満(個人企業他を含む)が82件(前年同期比6.8%減、前年同期88件)で、構成比は54.6%(前年同期52.3%)と5割を占めた。
 一方、1億円以上は発生していない(前年同期ゼロ)。

【負債額別】1億円未満が7割

 負債額別では、1億円未満が106件(前年同期比14.5%減、前年同期124件)。倒産に占める構成比は70.6%(前年同期73.8%)で、小規模倒産が主体となっている。ただ、1億円以上5億円未満が前年同期と同件数の37件、5億円以上10億円未満が6件(前年同期比50.0%増)と増加していて、中堅企業でも事業承継問題が出始めている。

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