「減資企業」動向調査

 長引くコロナ禍で財務体質の改善や税負担の軽減を図るため、資本金を「減資」する企業が急増している。2021年3月末までに資本金を減資した企業は3,321社(前年比35.6%増)で、1年前と比べ873社増加した。特に、資本金1億円超から1億円以下に減資し、税制上は中小企業として扱われる可能性のある大企業は、997社(同39.4%増)と約4割増えた。
 コロナ禍で毀損した財務改善が背景にあると思われるが、上場企業なども実施しており、資本金額で税負担が変わる税方式の見直し議論が加速しそうだ。
 資本金1億円以下は、法人税率の引き下げや法人事業税の外形標準課税の免除など、大企業と比べ税負担の優遇措置がある。コロナ禍で業績が悪化した企業は、コスト削減を進めながら税負担の優遇措置の恩恵を得たい思惑が見え隠れする。

  • ※本調査は、TSR企業データベースから2019年3月末、2020年3月末、2021年3月末で資本金が比較可能な株式会社、有限会社、合同

会社の261万9,720社を任意抽出、分析した。

  • ※期間内の増減資は、3月末の資本金を調査対象とした。
  • ※資本金1億円超を大企業と定義した。

 国内企業261万9,720社の2021年3月末の資本金を調査した。2021年3月末の資本金と前年3月末の比較では、増資は1万4,971社(前年比1.5%増)と微増に対し、減資は3,321社(同35.6%増)と大幅に増加した。うち、資本金1億円超の企業が1億円以下への減資は、2020年の715社から2021年は997社(前年比39.4%増)と約1.4倍に増えた。
 主な上場企業で、資本金1億円超から1億円以下への減資は、かっぱ寿司のカッパ・クリエイト(株)(東証1部)が2021年2月、資本金98億円から1億円に減資した。スマホゲーム開発のグリー(株)(東証1部)も2020年11月、資本金23億6,724万9,250円から1億円に減資している。
 資本金の額で企業の格を測る時代ではない。ただ、体力のある大企業が一時的な業績不振から減資を行い、中小企業の優遇税制の適用を受けるのは安易な節税対策とも受け取られかねない。コロナ禍で財務内容が悪化した企業は多いだけに、公平な税負担の議論と減資に頼らない事業再構築が必要だ。

増資は横ばい、減資は急増と対照的

 コロナの影響が出始めた2020年3月末時点では、増資は1万4,749社(構成比0.5%)、減資は2,448社(同0.09%)、資本金の不変は260万2,523社(同99.3%)だった。
 2021年3月末時点は、資本金の不変は260万1,428社(同99.3%)、増資も1万4,971社(同0.5%、前年比1.5%増)とほぼ横ばいだった。ところが、減資は3,321社(同0.1%、同35.6%増)と急増した。コロナ禍で深刻な業績不振に直面し、借入金や社債発行でキャッシュポジションを高める一方、早急な財務体質改善や税負担の軽減を目指して減資した企業が増えたとみられる。

産業別増減資 増資は運輸業が増加率トップ、減資はコロナの影響重いサービス業他が急増

 増資企業の産業別は、2020年の最多はサービス業他の4,058社(構成比27.5%)で、建設業2,822社(同19.1%)、情報通信業2,029社(同13.7%)と続く。2021年は、最多がサービス業他の4,274社(同28.5%)で、前年から5.3%増加。増加率トップは運輸業の9.0%増だった。中分類でみると、2021年の最多はソフトウェア開発など情報サービス業の1,610社(同10.7%)で、経営コンサルタントなど専門サービス業の1,167社(同7.8%)が続く。
 一方、2020年の減資企業は、増資企業と同様にサービス業他が最多の616社(同25.1%)と2割超だった。2021年の最多はサービス業他の1,009社(同30.3%)で、前年比63.8%増だった。
 2021年の減資企業の増加率トップはサービス業他で、次いで情報通信業の前年比58.5%増、金融・保険業の同41.9%増、不動産業の同34.6%増の順だった。

産業別 資本金1億円以下の減資企業

 資本金1億円超から1億円以下に減資した企業を分析した。2020年は、715社が減資し、最多がサービス業他の160社(構成比22.3%)で、製造業146社(同20.4%)、情報通信業126社(同17.6%)の順だった。
 2021年も最多は新型コロナの影響が深刻な飲食業などを含むサービス業他が272社(同27.2%)で、前年から70.0%増と急増した。次いで、製造業の191社(構成比19.1%、前年比30.8%増)、情報通信業182社(同18.2%、同44.4%増)、卸売業101社(同10.1%、同26.2%増)と続く。
 2021年の前年比では、サービス業他に次いで、建設業が63.6%増、金融・保険業55.1%増、情報通信業44.4%増の増加が目立った。

資本金1億円以下に減資した企業の売上高別、損益別

 資本金を1億円以下に減資した企業の各3月末時点で判明した直近売上高別では、2020年は10億円以上50億円未満の157社(構成比21.9%)が最多。100億円以上126件(同17.6%)も約2割を占めた。2021年も10億円以上50億円未満が最多の235社(同23.5%)だったが、次いで1億円以上5億円未満の135社(同13.5%)で、100億円以上の129社(同12.9%)と入れ替わった。
 損益別(当期利益)では、2020年(内円)は黒字が構成比54.9%と過半で、赤字は27.9%と少なかった。だが、2021年(外円)は黒字が43.9%と大幅に減少し、対して赤字が38.6%と急増した。新型コロナの影響で業績が悪化した大企業が減資する動きを強めたことが背景にある。

 新型コロナウイルスの影響が猛威をふるい、業績悪化に伴う減資が増えてきた。一方、増資は横ばいで、先行きが見通せないなかで増資を引き受ける企業やファンドの体力が乏しくなってきた可能性もある。
 コロナ禍での業績不振で、早期・希望退職者の募集や事業譲渡などでコスト削減を急ぎ、その一環として税制で有利な資本金1億円以下に減資するケースが多い。ただ、中小企業向け優遇税制を大企業が利用する一方、中小企業は減資が信用毀損に直結する可能性もあり、実施に踏み切れない企業も少なくない。
 コロナ禍で資金繰りが悪化した企業には、コロナ関連融資など支援はあるが借入金のため財務体質の改善にはつながりにくい。また、給付金はほぼ終了し、資本性劣後ローンの取り組みは本格化するまでに至っていない。それだけに減資が財務改善の即効薬になるが、大企業の安易な取り組みは、中小企業への支援見直しにつながる可能性も出てくる。
 資本金で区別しない税制支援など新たな課題も浮上するが、現状の制度では今後も上場企業を含めて減資を実施する企業が増えるとみられる。

増減資の企業数(各3月末時点)
資本金1億円以下に減資した企業(産業別)
資本金1億円以下に減資した企業(損益別)

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