元なでしこ・大野忍氏が感じた不安材料 〝別格〟岩渕が封じられたらどう打開するか

エースの風格漂う岩渕

【なでしこリーグ歴代最多182点 大野忍ひとりごと】なでしこジャパンは東京五輪前としては最後の強化試合を終え、あとは18日のメンバー発表を待つだけとなっています。私は10日に広島で行われたウクライナ戦のテレビ解説のお仕事をいただいたので、現地で選手の動きをチェックしてきました。

気温の上昇など相手にとって厳しいコンディションだったこともありましたが、多くのなでしこ選手たちがいいアピールをしていたと思います。その中でもFW岩渕真奈選手のプレーは別格でした。先制点をアシストした左サイドからの突破もさることながら、チーム2点目となったゴールは素晴らしかったです。

CKの流れから2次攻撃となってもしっかりポジショニングを取り、MF中島依美選手の右クロスに反応。ゴール前に走り込んで右足を振り抜いてゴールネットを揺らしました。決して簡単なシュートではなかったと思いますが、岩渕選手のプレーは自信に満ちあふれていました。

イングランドに移籍し、プレーの幅も質も高まったのは明らかです。さらに、チームの中心選手としての自覚もあり、今、何をしなければいけないのかも分かっています。彼女の自信というものがチーム全体の雰囲気をつくっていると言っていいでしょう。

その「自信」は昨季のなでしこリーグで得点王&MVPを獲得したFW菅沢優衣香選手にも感じられましたし、最終ラインからチームを引っ張った主将のDF熊谷紗希選手も頼もしさを増していました。

その一方で、気になることがあったのも事実です。後半の飲水タイムの時、選手間での話し合いをしている姿がほとんど見られなかったのです。きつい時間帯だったのは確かですが、こういう時こそ選手はコミュニケーションを取らないといけません。試合中にその余裕がなくても、こういうちょっとした時間で修正点を確認する姿勢を持たないと、大事な場面では命取りになりかねません。

もちろん、五輪メンバー選考がかかった大事な試合ですから、当落線上と思われる選手は自分のアピールに必死で、チーム全体のことを考える余裕はないかもしれません。若手なら、なおさらでしょう。ですが、こういう時こそ「今、チームに何が必要なのか」を感じ、それをプレーで示せるかが大事です。そういう選手が金メダルを取るためには必要なんです。

13日のメキシコ戦も含め、チームに必要な選手というのはハッキリしたでしょう。攻撃面では、やはり岩渕選手。期待しかありませんが、逆に彼女が封じられたときにどう打開できるのかという心配すらあります。最終的に選ばれる18人がどれだけチームのために汗をかけるか。なでしこジャパンの復権は、そこにかかっています。

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