神奈川でも職域接種の準備進む 残る不安、断念のケースも

職域接種の会場準備が進む横浜銀行本店ビル=横浜市西区(同行提供)

 新型コロナウイルスワクチンの職域接種が21日から本格的に始まる。政府は企業の協力を得ることで、現役世代の接種を加速させたい考え。県内でも大企業を中心に急ピッチで準備が進められているが、初めての取り組みだけに「スムーズに進めることができるのだろうか」と心配する声も漏れ聞こえる。一方、検討を進める中で浮かび上がった課題に対応できず、断念したケースもあった。

 職域接種は、打ち手となる医療従事者や会場を企業側で確保する必要がある。国へ申請し、了承を得られると、米モデルナ製ワクチンや注射器などが配送される。

 県内では横浜銀行(横浜市西区)、ファンケル(同市中区)、京浜急行電鉄(同市西区)、相模鉄道(同)、コロワイド(同)、ノジマ(同)、ニッパツ(同市金沢区)などが申請を済ませ、早いところでは21日から接種を始める。

 横浜銀行は、パート従業員らを含め希望者約7千人が対象。本店を会場とし、顧客と接する営業店の従業員を優先し、産業医が接種する。全員が2回の接種を終えるまでに約3カ月半かかる見通しという。接種に先立ち、ワクチン休暇制度を新設。当日を含む2日間を上限に、休暇を取得できるようにした。

 ファンケルは、グループの従業員や18歳以上の同居家族らが対象。約2400人の接種を想定している。本社会議室に医師や看護師、運営スタッフら約30人を配置。土日を含む14日間で対応する。コロワイドは社員や家族ら約6千人の接種を見込み、会場を2カ所用意。8月上旬までに終える予定だ。

 各社、接種に向けて準備を進めているが、円滑な運営ができるか心配する声もある。相模鉄道は「ワクチンが無駄にならないように接種のスケジュールを立てなければならない」と話す。運用方法やスケジュールをこれから詰める企業もあり、ある企業の担当者は「(運用方法を)走りながら考えている状況。無事終えられるのだろうか」と不安を口にする。

 さまざまな企業が職域接種の検討を進める中、課題も明らかになってきた。実施を見送ったある県内企業の担当者は「事業所が点在しているため、通常の業務を行いながら1カ所に社員を集めて接種を行うのは、現実的に厳しい」と打ち明ける。

 職域接種を検討中だという県内上場企業の担当者は「接種のための設備や環境が整っていない企業には(副反応など)有事の際のリスクが残る」と指摘。政府に対し、「大規模接種での知見を生かし、専門家を派遣するなど運用の支援をしてほしい」と訴えた。

 職域接種は、千人規模で行うことが要件。国は中小企業の場合、商工会議所などを通じて共同で実施できるとしているが、対応は現場に委ねられている。

 横浜商工会議所にも会員の中小企業から問い合わせが寄せられているというが、「検討中」と担当者。打ち手や場所の確保、接種に携わるスタッフの人件費などを課題に挙げた。

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