ここにいる数少ない女の子のために… モッズが奏でる「バラッドをお前に」 2021年6月21日は THE MODS メジャーデビュー40周年。不退転のロッカーの軌跡を見よ!

モッズの転換点にある名曲のひとつ「バラッドをお前に」

1981年にデビュー。その後も休むことなくステージに立ち続け、常に時代に即した革新的なロックンロールをドロップし続け、今年メジャーデビュー40年目を迎える不退転のロッカー、THE MODS(以下モッズ)。

彼らの歴史において最初の転換点といえる出来事は、MaxellカセットのCM出演だ。このCMには、1983年9月21日に発売されたシングル「激しい雨が」が使われ、当時のモッズのバンドカラーが鮮明に映し出されている。その姿は、媚びることなく、世の中の流れに迎合することなく、自分たちのやり方で、自分たちの音楽をお茶の間へ浸透させる力強さだった。

そしてもう1曲、彼らの歴史を語る上で外すことのできないナンバーが「バラッドをお前に」だ。この曲は、「激しい雨が」と同じく、4枚目のオリジナルアルバム『HANDS UP』に収録され、モッズ5枚目のシングルとして1984年2月1日にリリースされ、坂上忍主演の TBS系ドラマ『中卒・東大一直線 もう高校はいらない!』の主題歌にもなっている。

当時のモッズの活動を思い出してみると、この年に全国を周った『GANG TOUR』を総括するスペシャルライブを1983年12月17日、後楽園球場に作られた特設テントで行っている。前売りチケットには付録として、メンバーそれぞれからのファンへのメッセージとロカビリーフレーバーのナンバー「ブルースに溢れて」(『HANDS UP』に収録)が収録されたMaxellのカセットが付いていた。

こうしてモッズの音楽が世間に浸透してきた頃を思い返してみると、デビュー当時、彼らが自分たちでレコード会社を選び、マネージメントを行い、自分たちの音楽を浸透させるために、沈着冷静に周囲を見極め地道な活動を行ってきたことに “やっと時代が追いついた” という印象だった。

「バラッドをお前に」が硬派なアルバムのラストを飾った意味

この少し前、モッズは土屋昌巳プロデュースのサードアルバム『LOOK OUT』により、スカ、ロカビリー、ファンクなど、様々な音楽を下地にした、言うならばクラッシュの『ロンドン・コーリング』にも匹敵する音楽性を開花させていた。

ここから彼らは自身のロックンロールをより深化させ、アメリカンニューシネマやレイモンド・チャンドラーといったハードボイルド小説の世界観を醸し出すなど、次のアルバムで独自の美学を集約させる。それが、ウエスタン調のナンバー「KID WAS…」から始まる『HANDS UP』であった。そして、この硬派なアルバムのB面ラストを飾っているのが「バラッドをお前に」だ。

 時間はまるで ダイヤモンドの光さ
 淋しさの中じゃ 俺も弱くなる

 お願いだ Baby
 そばにいて笑って
 その顔を見たくて 俺はボロボロになる

「俺はボロボロになる…」このワンフレーズが、当時多くのモッズファンの心に深く突き刺さった。

モッズは常に、僕らファンに、先陣を切って新たな音楽の価値観を見せつけてくれた。それは、ロンドン直系のファッション、楽曲から垣間見られるルーツミュージックへの愛情、リーダー森山の歌詞が自身を映し出す鏡であること…。そんな兄貴的存在であったバンドが、切なくなるような弱さを吐き出したのだ。

―― ここで、モッズと僕らファンとの距離がぐっと近くなった。

ここにいる数少ない女の子のために… より成熟したモッズとファンの関係性

デビュー当時のモッズファンは本当にガラが悪く、アンコールも「モリヤマ~出てこい!」だった。もちろん今は誰もそんな言い方はしない。こんな風になったのは、「バラッドをお前に」以降だと思う。

これは、バンドが大きくなり、ファンとの距離が遠くなったからだと考える人もいるかもしれないが、実はそうじゃない。むしろ、森山自身の弱さを見せつけてくれたことで、モッズの楽曲は、ファンひとりひとりの中で物語性を帯び、僕たちとバンドの関係性は成熟していったのだ。

80年代前半、モッズの客層は圧倒的に男が多かった。だから森山は「バラッドをお前に」を演奏する前「ここにいる数少ない女の子のために」という言葉を添えていた。そんな優しさもモッズの一面となり、今では観客の半数近くが女性というライブもある。

あの頃、「バラッドをお前に」を聴いて涙を流していた十代の少女たちは、時を重ね人生の節目節目に聴いてきたナンバーを “自分の物語” として心の中に育み続ける。

そして、今でもあの頃のように、ステージを見つめるまっすぐな瞳を潤ませている。

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※2018年2月1日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 本田隆

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