はかなくあけて

 夜が「明ける」と、箱を「開ける」を掛けている。夏の短夜(みじかよ)を詠んだ一首が拾遺和歌集にある。〈夏の夜は浦島の子が箱なれや はかなくあけて悔(くや)しかるらむ〉▲うっかり開けた浦島太郎の玉手箱だろうか、あっけなく夜が明けてしまって悔しかろう、と。きのうは夏至で、一年のうちで夜が最も短かった▲大会の幕を「はかなく開けて悔しかるらむ」という事態にならないか、国民の多くは案じている。共同通信社の先ごろの世論調査によれば、東京五輪・パラリンピックを開くことで新型コロナがまた広がるのを「不安」としたのは、「ある程度不安」を含めて8割以上に上った▲「無観客で開くべき」4割、「中止すべき」3割という高い数字は、再拡大への不安が増している表れだろう。玉手箱のように、短夜のように、あっさりあけてはいけないと、国民がくぎを刺すようでもある▲定員の50%以内で、最大1万人にするという五輪会場の観客数の上限がようやく決まった。予想された数字だが、感染が広がれば無観客もあり得る▲観客を入れるとして、チケットをすでに買った人は観戦できるのか、会場運営をどうするのか分からない。専門家の提言を脇に置いて、なぜ「1万人」としたのか分からない。暗い夜が最も短い時分だが、不明なことがやけに多い。(徹)

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