子育て中に一念発起「夢を追いかける母でありたい」 全軟連初の女性理事が担う役目

全日本軟式野球連盟の理事を務める頓所理加さん【写真:本人提供】

全軟連の理事に昨年就任、女子野球の環境整備に奔走する日々

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言で注目されることになったスポーツ界における女性役員の存在。全日本軟式野球連盟(全軟連)には1年前に初の女性理事が誕生していた。新潟県女子野球連盟を立ち上げ、新潟県軟式野球連盟理事、新潟市軟式野球連盟常任理事も務める頓所理加さんだ。

2013年から小学生女子のNPBガールズトーナメント、2016年から全日本中学女子軟式野球大会を開催する全軟連が頓所さんに声をかけたのは2019年。最初は立ち上げたばかりの女子部会の部会長としての招聘だった。翌年には74年の歴史で初の女性理事に就任し、現在は理事と女子部会長を兼務しながら、女子野球を取り巻く環境整備に奔走している。

「選手や運営側として野球に関わっている女性はたくさんいます。野球界を変えたいと本気で思っている女性もたくさん見てきました。これまではそういう女性が野球の役員として携わる環境はゼロだったと思うんです。ゼロがイチになったんだとしたら、すごく意味があることだと思います」と頓所さんは責任の重さを感じながら先頭を走る。

野球との関わりは、28歳で少年野球チームのコーチを引き受けた時にスタートした。子どもの頃には野球をできる環境がなく、高校まではソフトボール選手。20歳で埼玉から新潟の農家に嫁ぎ、1男1女の子育てをしている時に「自分の夢を追いかける母でありたい」という思いが芽生えた。その夢とは野球をすること。家のことも、仕事もきちんとするから野球をやらせてほしいと家族に頭を下げ、野球と関わり始めた。

少年野球チームのコーチとして男子に混じってプレーする女の子たちと接するうちに、女子野球の普及に力を入れることを決意した。2008年にBB(ベースボール)ガールズ普及委員会を立ち上げ、女の子だけのイベントを開催し、新潟に女子野球の種を蒔いた。

新潟県内で初めての高校女子硬式野球部となる開志学園の創部にも関わり、同校のコーチを4年間務めた後、県内の女子野球6団体を取りまとめる新潟県女子野球連盟を立ち上げた。

全軟連初の女性理事として目指すのは女子野球の発展と球界への女性参画

会長として、女子野球の環境整備と普及活動に力を注ぐ一方、女子だけの草野球チームで捕手を務める現役選手でもある。「すごく下手ですけど、何よりも野球をやっている時が一番楽しい。ボールを持って、ボールを投げている時が一番楽しいので」と時間をやりくりして楽しんでいる。

全軟連初の女性理事として目指すものは2つある。一つは女子野球の発展。全軟連が主催する女子の大会は現在、小学生と中学生のカテゴリーだけで高校、大学、クラブチームは別組織が主催している。これら全てのカテゴリーを全面的にバックアップする仕組みを思い描く。

「女子野球の発展は、今後の軟式野球を左右するものと思っています。お母さんが野球好きだったら、子どもたちは野球をすると思うんです」。これは実体験に裏打ちされている。頓所さんが少年野球のコーチをしている姿を見て、2人の子どもたちも自然に野球を始めた。

「男の人もそうですが、軟式は草野球などで最後まで続けられる競技。軟式で野球を続けたり、見るのが楽しいという女性が増えることは子どもたちにも良い効果があると思っています」と競技人口減少という難題解決への一助になると考えている。

もうひとつの目標は、野球界への女性の参画だ。これは全軟連の理事を引き受けたことで初めて芽生えた意識だという。「その重要性とか必要性に気づいて、そこも今後広げていきたいと考えるようになりました」。

「男性に理解してもらいながら形を作っていきたい」

全軟連で唯一の女性理事である頓所さんは今、47都道府県の軟式野球連盟に女性理事が何人いるのか調べている。「県連にもあまりいないらしいです。野球界にこんなに女性が少ないのは正直寂しく感じています。男女ともに競技があるのに。どうやったら女性を増やしていけるのか。男性に理解してもらいながら、いい流れの中で形をつくっていきたいと考えています」。

単に役員の数を増やせばいいという発想ではない。「女性が大人になっても、野球に関わることのできる場を増やすことですよね。理事という場所だけではなくて、放送だったり、記録だったり、審判だったり、いろんな場面があると思うんです。あんなにたくさんいる子どもたちが大人になって、みんな野球を諦めるわけですよ。女性だと監督やコーチのポジションも少ないですし。それが寂しいです。私自身はその楽しさを全部経験しちゃったから。今の子たちが大人になる時に同じものを経験させてあげたいので、そういう環境を増やしたいです」。

指導者、大会主催者、選手、さらに連盟と様々な関わり方をしてきた頓所さんだからこそ言える言葉だ。

理事会では粘り強く女子野球の必要性や女性の活躍の場をつくる大切さを訴えている。2人の子どもはすでに社会人。「子育ても終わって、残りの人生は、好きなだけ“野球、野球”って言っているおばちゃんでいようと思います」と茶目っ気たっぷりに笑う表情には、野球への熱い思いがあふれていた。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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