【東京五輪】山下泰裕JOC会長に独占直撃「緊急事態宣言下での無観客開催は当然だ」

独占インタビューに応じたJOCの山下会長

本当に大丈夫なのか。東京五輪開幕まで1か月を切ったが、新型コロナウイルスは再拡大の傾向を見せ、国民の間では依然として開催の反対意見が少なくない。そんな中、日本オリンピック委員会(JOC)・山下泰裕会長(64)の単独インタビューに成功。本当に「安心安全な大会」は実現できるのか? 国際オリンピック委員会(IOC)やトーマス・バッハ会長(67)に対する批判、海外選手団の水際対策、選手村での「飲酒問題」は…。JOCトップが気になるテーマについて激白した。

――開幕まで1か月を切った。率直な心境は

山下会長(以下、山下) 開催地が決まってから8年。政府、東京都、組織委員会、財界と力を合わせてやっとここまで来た。まだ課題があるが、1か月後には世界中のアスリートが集まって安心安全に開催されると思っている。

――最重要課題の一つが新型コロナ対策

山下 過去1年、世界各地で約450の競技会をやっていて、そこでは1回もクラスターが発生してない。

――五輪は規模が違う

山下 そこでワクチン接種。日本選手団のうち95%が接種予定、海外選手団は84%が接種済みと聞いている。接種率や死者数などはリアルタイムで分かるので、データ等を客観的に見てもらえたら。

――来日したウガンダ選手団から陽性者が出た

山下 私が得た情報によると、接種してから抗体ができるまで2週間なので、その前だったのではないかと。だからこそ毎日検査を行う。

――感染対策に力を入れても、国民から理解を得られていないのが現状

山下 やはりコロナがなかなか終息しない。そうした中で五輪が開催されることへの不安や不満、五輪だけ特別なのかという感情を持たれることは、我々スポーツ関係者も理解しなければならない。

――IOCに対してネガティブなイメージを持つ国民もいる

山下 バッハ会長とは昨年11月に来日の際、一緒に食事をした。そこで強調していたのが、ワクチン接種により五輪関係者だけでなく都民、国民も守るということ。あとは来日する関係者について、競技団体、スポンサー等あるが、真っ先に削ったのはIOC。委員以外の配偶者や家族は一切認めていない。

――IOCの発信と日本側の受け止め方に〝誤解〟があるということか

山下 バッハ会長が「犠牲」という言葉を用いたとき、少しでも五輪に関わっている人なら、入国する人に求めることであって、国民に求めていることではないのは誰だって分かるはず。でも、日本では違った。「五輪ファミリー」という言葉にも勘違いがあったように思う。

――日本入国後、本当にルールを守ってくれるのかという不安もある

山下 出場権を手にし、ワクチンも受けて来日した選手がちょっと窮屈だからといってルールを破って強制送還になったら、自分の人生から太陽が消えたような感じになると思う。多くの国民がストレスをためているのは理解できるが、海外からすれば「日本はトップアスリートをそのように見ているのか」となりかねない。それに「迎える日本人はワクチンを打たなくていいのか」とか。

――選手村での飲酒も話題となった

山下 前提として選手の大半が大人。滞在期間は3、4週間に及び、これまでの五輪でもお酒は入っていた。それに(過去の大会では)気分転換に選手村の外に出られたが、今回は出られない。「選手村で酒盛りとは何ごとか」という指摘があるかもしれない。しかし、選手村の食堂で飲んでいるアスリートなんていない。みんな自分の部屋。北京五輪でウサイン・ボルトの活躍にジャマイカ選手らが外で大騒ぎしてお酒を飲んでいた際、隣が日本選手団で次の試合があることを伝えるとすぐにやめたと聞いた。

――〝ドンチャン騒ぎ〟はない

山下 自分さえよければいいというアスリートなんてほとんどいない。「選手村でアルコール=酒盛り」というのも…。海外の人が驚くような情報に変わっているし、そのへんは国民も不安を持つところだと思う。

――観客数の上限は収容人数の50%以下で1万人。一方、大会期間中に緊急事態宣言が発出された場合は無観客になる可能性もある

山下 当然だ。いつも安心安全が大前提という話をしている。延期が決まってから100%観客を入れるパターン、無観客のパターンと様々なシナリオがあった。ただ、なぜ言わないかというと、言えばそこだけ書くから。「無観客か」「無観客の可能性も」とね。東スポだけじゃないけど(笑い)。安心安全の前提が壊れていったときには、あらゆることが想定される。

【アスリート批判に憤り】山下会長は五輪開催を巡ってアスリートが批判の対象になっている現状に、珍しく語気を強めた。競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)は、自身のSNSに五輪の代表辞退や反対意見を求めるメッセージが届いたことを明らかにした。山下会長は「五輪を目指す人に何の罪があるのか。やめてくれ、卑怯だということ。叩くならJOCと組織委員会を叩けばいい。これは書いておいて」と憤りをあらわにした。

現役時代の1980年モスクワ五輪前には、自身にも批判的な手紙が届き、手を震わせながら読んだという。「『アフガニスタンでは(紛争で)これだけの人が亡くなっているのに、身勝手な発言をするな。いい加減にしろ』との内容だった」。このような行為はアスリートの心を傷つけるだけだ。

☆やました・やすひろ 1957年6月1日生まれ。熊本県出身。84年ロス五輪柔道男子無差別級金メダル。世界選手権は79年から95キロ超級3連覇、81年は無差別級との2冠。85年の全日本選手権で前人未到の9連覇を果たし、203連勝のまま現役引退した。84年に国民栄誉賞受賞。男子日本代表監督などを経て、2017年6月から全日本柔道連盟会長。19年6月、JOC会長に就任。国際柔道連盟理事、母校の東海大では副学長。柔道の得意技は大外刈り、内股。

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