【解説】韓国ECの巨人「クーパン」とは? 創業から孫正義との出会い、9兆円時価総額、日本進出まで

クーパンを創業したのは韓国系米国人

クーパン(쿠팡/Coupang)は大韓民国に本社を置き、米国に持株会社を置く Eコマース企業だ。創業者は、米国国籍を持つ韓国系アメリカ人Bom Kim(韓国人のキム・ボムソク)氏だ。2010年8月に創業された。韓国クーパン本社は株式非公開企業であるが、デラウェア州に本社を置くCoupang Inc.(持株会社)はニューヨーク証券取引所に上場している。キム・ボンソク氏は2021年7月2日現在、クーパン韓国本社の理事会議長、Coupang Inc.のCEOを務める。

キム・ボムソク氏は韓国生まれだが、7歳の時に米国に移住した。父親が大企業の駐在員であったとされる。ハーバード在学中の1998年に雑誌「カレント」(Currents)を創刊。読者数を10万人まで伸ばし、2001年にニューズウィークに売却した。

ハーバード大学卒業後の2002年にはボストンコンサルティンググループ(BCG)に就職し2年間働いたのち、2004年には名門大出身をターゲットにした月刊誌「ヴィンテージメディアカンパニー」を設立し、これも2009年に売却。 2009年にはハーバード大学MBAに入学したが6ヶ月で中退した。そして2010年に創業メンバー7人と共に韓国でクーパンを創業した。

事業経緯とソフトバンクとの出会い

クーパンは創業当初、ネットで共同購買などを行うソーシャルコマース事業を展開していたが、2014年から翌営業日配送を打ち出し、独自の配送サービス「ロケット配送」(当時のサービス名は「ワウデリバリー」)を導入。当時、EC事業社が宅配業者を使わずに直接配送員を雇用するモデルはクーパンが初めてだった。

ロケット配送サービスは、夜12時までに注文すると翌日早朝に配送してくれるサービスだ。現在は他にも「ロケットワウ」(月2,900ウォン=約285円で無料配送・無料返品)や、「ロケットフレッシュ」(生鮮食品の配達)など、ウーバーイーツならぬ「クーパンイーツ」(料理配達)など様々な配送サービスオプションを投入した。

この頃から投資資金の誘致も活発になった。2014年5月には米国セコイアキャピタルから1億ドル、同年11月には米国ブラックロックから3億ドルを調達。2015年6月には、ソフトバンクの孫正義会長が10億ドルを投資。その3年後には、ソフトバンクグループ傘下のビジョン・ファンドがさらに20億ドルを出資した。ソフトバンクのこの大型投資によってクーパンの企業価値は一気に上昇した。

2020年9月1日には社員が37,584人となり、サムスン電子、現代自動車、LG電子に次ぎ、韓国で4番目に社員数が多い企業となった。

2020年9月11日には、慶尚北道金泉市に2年間で1,000億ウォン(約98億円)を投資し、サッカー場12個分に相当する物流センターの設立のため、同市と投資誘致了解覚書(MOU)を締結した。

米国上場と時価総額9兆円

そして、2021年3月11日にはニューヨーク証券取引市場(NYSE)に上場。終値で計算した時価総額は840億ドル(約9兆円)を超え、海外企業の米新規株式公開(IPO)としては、2014年の中国・アリババ以来の大きさとなった。クーパンは創業当初から米国株式市場への上場を目指していたと伝えられている。(2021年7月2日現在のクーパン時価総額は719.36億ドル=約8兆円となっている)

ブルームバーグニュース(3/12)によると、クーパン株上場でソフトバンクグループが保有する持分の価値は11日午前の段階で360億ドルに達し、総合的な投資リターンは300億ドルを超える計算になったという。

(写真:クーパンの物流センター/クーパン提供)

クーパンの米上場と時価総額の急騰により、韓国のEC市場では変革が起こり、イーマート(emart/이마트)がイーベイコリアを2021年6月に買収しシェアを3%から一気に15%へと拡大。ネイバー(同18%)に次いで業界2位だったクーパン(同13%)が3位に落ちるという現象が起きている。(売上高基準ではクーパンが1位)

2021年6月には海外進出の第一歩として日本に現地法人(CP JAPAN)を設立した。韓国メディアなどによると、すでに日本の人材募集サイトなどで幹部を含むスタッフを募集中とされ、テスト配送も行っていると伝えられる。

実は慢性赤字のクーパン、今後の成長のカギは?

ロケット配送の導入、ソフトバンクとの出会い、そして米上場によって国際的にも一気にブレイクしたクーパンだが、同社の実績をみると、2010年の創業以来、一度も利益を出していない。クーパンが提出した有価証券届け出書によると、それどころか営業損失は2017年に6,389億ウォン(約628億円)、2018年には1兆1279億ウォン(約1,110億円)にまで拡大。2019年には7,205億ウォン(約709億円)、2020年には5,842億ウォン(約530億円)にまで縮小しているが、いまだ大きな規模の赤字を出し続けている。(※いずれも現在レート)

一方で、売上も毎年大きな伸びを示している。2017年には2兆6,846億ウォン(約2,641億円)、2018年には4兆3,545億ウォン(約4,283億円)、2019年には7兆1,531億ウォン(約7,036億円)、そして2020年には前年比92%増となる13兆2478億ウォン(約1兆3,350億円)を記録している。

クーパンの慢性赤字体質は、同社の売りであるロケット配送を支える物流センターへの先行投資などが背景にある。売上の拡大を優先して市場を支配する戦略をとっているとみられる。東亜日報(2/15)によると2020年の赤字額(5,842億ウォン)に関しては新型コロナウイルス対策のための防疫システムなどに5,000億ウォンを投じたことから、「すでに損益分岐点に到達したという評価」が出ている。

ただし、今後の成長について考えたとき、韓国市場を占有しただけでは物足りない。そのため、日本など海外進出がカギになると思われる。日本進出の際に問題となるのは、正方形型の国土を持つ韓国では強みを発揮したクーパンのスピード配送システムが、横に長い日本列島でも支障なく活かせるかがポイントとなるだろう。ちなみに2021年に7月1日には日本のBEENOSグループがクーパンとの業務提携を発表しており、日本企業が韓国のクーパンサイトで販売することが今後可能になるようだ。

(画像:クーパンとの業務提携を発表した日本のBEENOSグループ=BEENOS提供)

また、クーパンは、2020年末から「クーパンプレイ」というOTT(Over The Top=動画配信など)サービスを始めており、米Amazonのようにスケールメリットを活かしたクラウドサービスを展開していくとみられる。

(参考記事:「BEENOSが韓国クーパンと業務提携 日本企業の韓国進出をサポート」)
(参考記事:「韓国イーマートが3,365億円でイーベイコリアを買収 ECシェアでクーパン抜く 株価も上昇」)
(参考記事:「英富豪ロスチャイルドのRITファンド、韓国クーパン株がポートフォリオの66%に」)

© 合同会社WTS研究所