〈じょうえつレポート〉児童が稲作、酒造り 8年後の成人式、自分への〝贈り物〟 頚城酒造と柿崎を食べる会 古里の魅力知る活動 

 柿崎区の柿崎小6年生が育てたコメで日本酒を造り、児童が20歳になった時に味わってもらうプロジェクトが2年目を迎えた。今年から同区内の上下浜、下黒川両小6年生も参加している。同区の頚城酒造(八木崇博社長)と若手農業者グループ「柿崎を食べる会」(長井慎也会長)が呼び掛け、8年がかりの壮大なプロジェクトには、柿崎の未来を担う子どもたちに「自分の育った地域の魅力を知ってほしい」という思いが詰まっている。(山賀康平記者)

 水田があるのは尾神岳を間近に見上げる東横山。棚田の一番上にある「大出口泉水」は平成の名水百選に選ばれ、毎日多くの人がくみに訪れるほど上質な水が流れている。同会と同社は「柿崎名水農醸」というプロジェクトを立ち上げ、棚田で育ったコメと泉水の水で仕込んだ日本酒を「和希水」の銘柄で販売している。児童のこうした活動も、中山間地の振興を掲げる同プロジェクトの一環。児童が飲むことになる酒も和希水がベースになっている。

柿崎小で始まり全3小学校へ

 企画は八木社長が中心となって柿崎小に提案し、昨年からスタート。春の田植え、夏の稲の成長見学、秋の収穫、収穫したコメを酒として仕込む冬の作業全てを体験、見学した。今年3月に同校を卒業した現・中学1年生分の酒はすでに完成し、20歳になるまで同社で大切に保管される。当時の児童がデザインしたオリジナルラベルを貼って渡される。

3校の6年生71人が一列に並び、全員で田植え(6月7日)

 コメ以外の地元食材に触れてもらう機会も提供する。春の田植え、秋の稲刈り後は地元飲食店の料理人による、柿崎産食材を使った料理が振る舞われ、児童はいのしし汁やフグの空揚げ、イチゴジェラートなど普段なかなか食卓に並ばない〝ごっつぉ〟を、柿崎を一望できる棚田で味わった。

手の掛かるぬか釜で炊き上がったつやつやの棚田米に見入る児童(6月7日)

 今年から上下浜、下黒川両小にも声掛けし、区内の全小学校に通う6年生71人が参加する。ほとんどの児童が進学する柿崎中の入学前から児童同士の関係性をつくる役割もある。6月に行われた田植えでは、作業を前に顔合わせを兼ねた簡単なレクリエーションが行われ、他校の児童同士で協力して作業したり、一緒に昼食を囲んだりして打ち解けていた。

 2年連続で6年生の担任を務める柿崎小の小林健太教諭は「地域の方の力でできる素晴らしい活動。一緒に過ごした仲間と8年後に会うことが、さらに楽しみになると思う」と話す。

思い出と時間共有する機会に

 また、3校での実施はもう一つ大きな意味がある。児童が再会し、杯を交わす場となる区の成人式「若人のつどい」(柿崎まちづくり振興会主催)は、区内の新成人全員が対象。そのため3校に通った児童全員に日本酒が渡ることにより、思い出と時間をみんなで共有することができる。

 児童が自分たちの日本酒を受け取る8年後は、一人一人の境遇が異なる。八木社長は「20歳になった子どもたちは働いたり、東京に出たりと、視野が広がっているはず。都会と古里で何が違うか、いいところはどこかを感じてほしい」と、成長した子どもたちとの再会を楽しみにしている。

酒蔵の冷蔵庫で8年後を待つ、今年柿崎小を卒業した現・中学1年生の日本酒。現在はマイナス2度で保管され、状況を見て温度を調整するという

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