無事を祈る月

 旧暦の7月を「文月」と言い、そのいわれはさまざまある。一説には、七夕に願い事の文(ふみ)を書くことにちなむという。だとすれば7月は、古くから願いや祈りにゆかりが深い▲勉強の成績アップを願ったり、家族みんなの健康を祈ったりと、短冊にはだいたい、身近なお願いを書く。ここ数年はどうだろう。7月は列島のどこかが猛烈な雨に襲われ、遠くからその土地の人々の無事を祈ることが増えた▲2017年、福岡県と大分県で記録的な大雨。翌年、広島県などで300人が犠牲になった西日本豪雨。昨年は熊本県の球磨川で水があふれ、被害は甚だしかった▲どれも7月上旬の災いだが、今年もこの時期に天の非情を嘆いている。大雨に襲われた静岡県の熱海市伊豆山でとてつもない規模の土石流が発生し、家屋をのみ込んだ。その時の映像を見て、勢いのすさまじさに言葉を失う▲今すぐ避難するよう呼び掛ける「避難指示」が出ないうちに、濁流が一気に山を下ったらしい。大量の土砂を取り除くのに四苦八苦しながら、住民の捜索が続けられている▲傾斜地で起きたこの災害は、斜面の多い土地に住む私たちに警告を発するようでもある。近々、本県でも大雨の恐れがあるという。被災した人の無事を祈りつつ、私たち一人一人の無事のために備えを怠るまい。(徹)

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