12万7755人

 〈…被爆者の皆さんも『被爆者』である前に1人の生活者だったり高齢者だったりするわけで、世界の核状況や日本政府の不誠実に四六時中憤ってるわけじゃなく、笑ったこと、うれしかったこともたくさんあるはずで…〉▲今週の月曜、被爆者の山田拓民さんのお別れの原稿を書きながら、少し前に「ながさき時評」執筆者の山口響さんとこんな趣旨のメールをやり取りしたことを思い出した▲画面や紙面の被爆者がいつも怒っていたり、心配顔だったりするのは、言うまでもなく、毎度毎度そんな場面で登場をお願いしてきた新聞社やテレビ局の責任である。だが▲原爆の日の体験が被爆者の数だけあるように、その後の長い年月も、喜びも悲しみも一人一人違っているはずだ。そんな話もじっくり聞きたい-と長いこと考えながら、なかなか形にできず、今年も8月が近づく▲昨日の記事によると、全国の被爆者数は3月末時点で12万7755人。前年より9千人近く減った。人数は日々変わる。それでも丸めた数字で書く気になれない▲今週の「ながさき時評」には〈どんなに小さな確率の出来事も当事者には“1分の1”〉とあった。私たちはあとどれぐらい被爆者の「1分の1」の物語に迫ることができるのだろう。残された時間は、本当に本当に短い。(智)

 


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