九州新幹線長崎ルート「幅広い協議」の一部を紹介 国交省と佐賀県、議論 平行線

オンラインによる「幅広い協議」に臨んだ山下部長(左)と足立課長(画面)=佐賀県庁

 九州新幹線長崎ルート未着工区間の新鳥栖-武雄温泉(佐賀県)を巡り、国土交通省と同県は5月31日、4回目となる「幅広い協議」をオンラインで開いたが、議論の大半は従来通り平行線をたどった。国交省の足立基成幹線鉄道課長と同県の山下宗人地域交流部長とのやりとりの一部を紹介する。

◆必要な数字とは

 国交省・足立課長 (フリーゲージトレインやスーパー特急など)五つの整備方式の中で、ネットワークとしてフル規格が適切だと前回の協議で伝えた。ただ、佐賀県からは議論に必要な数字が明らかになっていないとの指摘がある。私たちは建設費の概算だとか投資効果、地元の負担見込みなどを示しているが、他にどういう数字が足りないのか。
 佐賀県・山下部長 利用者目線で見ると、新幹線になったときに今あるものがどうなるのか、新しく入るものがどんなものか、そこが一つ一つ明らかになってない。私たちは在来線の利便性が低下することを非常に心配している。
 新幹線を佐賀県にというならば、すでに(新鳥栖駅という新大阪直通の)新幹線駅がある。佐賀駅から特急で12、13分。事業費の話もあったが、JR九州と協議していないで(事業費の)6200億はどれほど詰めたものなのか。(86億円の)貸付料はどこまで確かなものと言えるのか。

◆FGTの可能性

 足立課長 フリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)は安全性、経済性、高速化の各課題に技術的なめどが立たず、技術開発としては断念しているのが実情。FGTがあるじゃないかというが、どのような考えでどういうことをすれば(実用化を)実現することができるのか、考えがあれば提案いただきたい。
 山下部長 高速走行で(車軸部分の)摩耗が確認され、これがクリアできないという話があった。このテストは260キロでやってきているが、200キロでテストしたら、ひょっとしてクリアできたりしないのか。FGTは元々、私たちが(建設に)ギリギリで合意した最後の部分。今回の問題を解決する中で、もっと突き詰めていく必要があると思う。技術開発ができなかったではなく、やめたとなっているので、幅広い協議である以上、可能性がある以上、まだ残しておくべきだと思っている。
 足立課長 何千億円、何十年かければできるかもしれないが、しかるべき時間、しかるべきコストで開発をするのは難しいということで断念した経緯がある。いつまでかかるか分からない開発に頼り、それができるまでこのネットワークをそのままにしておくことが今後の西九州の発展を考えたときに本当にそれでいいのかと思っている。
 今やっている開発は130キロ程度のスピードで走る在来線同士のFGT。それ以上(の速さ)に関しては進めていない。200キロではどうかという部分は、検証をしていないので(今の時点で)絶対できない、こうすればできるという答えを持ち合わせていない。技術部門に話したい。

◆開業ができない

 足立課長 スーパー特急に戻すとなると(標準軌から狭軌への変更などが必要となり)来年秋の対面乗り換え開業ができなくなる。同じ佐賀県の武雄、嬉野の地域振興の観点でどう考えるか。武雄のところだけ対面乗り換えが続くとなると、今後のインバウンドなどを考えたとき、ネットワークの在り方としてどうなのかとも思う。
 山下部長 対面乗り換えの恒久化だが、在来線が生かされればいいと思う。フル規格の標準軌と在来線の狭軌をうまくつなごうとしたのがFGT。これがうまくいかず、(長崎-武雄温泉を)フル規格でやったから(新鳥栖-武雄温泉も)全部フル規格に、となるとちょっと乱暴だと思う。鹿児島ルートが暫定開業したときに(対面乗り換えで)乗ったが、便利だと思った。

◆議論のテーブル

 足立課長 在来線が一番大きな関心であり、懸念でもあり、この問題の最重要テーマだと思う。私の提案としては在来線のいろんな懸念を一番分かっている佐賀県とJR九州と私どもで、意見交換をしていってはどうかと強く思う。
 山下部長 佐賀県はフル規格を望んでいない。望んでないのにJR九州とフル規格になった際の在来線について協議することは、今の時点ではあり得ない。幅広い協議の結論がどういう形になるか分からないが、仮にフル規格という形になった時、私たちからJRに話を持っていくことはあるかもしれない。
 足立課長 フル規格が選択肢の一つで最大のテーマが在来線だとするならば、そこはある程度予断をもつことなく、やっていくべきではないか。
 山下部長 私たちがJRとのテーブルに着くことはないにしても、JRに(佐賀県の考えを)伝える役割というのは足立課長のところにあるだろうと思うし、(幅広い協議の場でJRの)提案を受けることはできると思う。

◆夢が描けるのか

 山下部長 (新鳥栖-武雄温泉間をフル規格で整備する場合のルート選定に関し)三つのルート案(佐賀駅ルート、駅南側の佐賀空港ルート、駅北部の長崎自動車道ルート)の整備効果を示すよう求めたことは、決してフル規格を進めようということではない。
 幅広く協議をしていく中で、今出されているこの五つ(の整備方針)だけじゃない、と。県内にもさまざまな声がある。南を通った場合、北を通った場合にどういう可能性が広がるのか。県民から声があるのに答えられてないので、やるやらないは次の話で、どういう夢が描けるのか見てみたい。
 足立課長 ルート検討に当たっては真ん中を通ろうが、南、北を通ろうが、在来線をどうするか(が重要)。単に収支改善効果などだけでなく、地域の皆さんの足がどうなるか、在来線も含めて議論したい。
 山下部長 在来線の利便性が低下することは一番の懸念であり、そこがクリアできないとなると、なかなか進んでいかないことも考えられるのかと思う。課題が出てきたときに、その課題をカバーするためにどんな手だてがあるのか。そういったことも合わせて考えていきたい。
 足立課長 在来線を含めてこの地域はどうなるかという視点も入れ、こちらからも話をしていきたい。

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