不動産に株式に投資信託…資産が多岐にわたる場合、相続手続きの負担を減らすには?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、40歳、会社員の男性。不動産や株式、投資信託など、複数の資産を持つ相談者。自分にもしものことがあったとき、相続手続きが複雑になるのを心配しています。よい方法はあるのでしょうか? 税理士の伊藤英佑氏がお答えします。

投資用マンションや株式、投資信託、iDeCo、生命保険、金積立など分散投資をしていますが、自分が亡くなって相続する場合に、相続する側は複雑で手続きが大変になると感じています。将来的にはまとめるか、現金化するのが良いと考えておりますが、良い方法がありましたら教えてください。

※離婚しており、15歳の子どもが1人います。

※投資用マンションを2部屋ローンで購入したら、借り入れが多くなり自己所有のための住宅ローンが組めなくなってしまいました。

【相談者プロフィール】

・男性、40歳、会社員、離婚

・同居家族について:離婚したため、現在はなし。子ども(15歳)とは別居

・住居の形態:賃貸(神奈川県)

・毎月の世帯の手取り金額:30万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:50万円

・毎月の世帯の支出の目安:20万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:6万5,000円

・食費:3万円

・水道光熱費:5,000円

・教育費:4万円

・保険料:7,000円

・通信費:3,000円

・車両費:1万円

・お小遣い:2万円

・その他:2万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:0円

・ボーナスからの年間貯蓄額:30万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):350万円

・現在の投資総額:2,000万円

・現在の負債総額:4,600万円


伊藤:ご相談ありがとうございます。現在40歳の会社員のご相談者が、投資マンションや株式、投資信託、iDeCo、生命保険、金積立など複数の種類の資産をお持ちで、相続発生時の手続きが煩雑になることを回避したいというご相談です。

離婚され配偶者がいないとのことで、今後の人生プランなどもあるかもしれませんが、本件はお子様が法定相続人という前提で考えていきます。

どんな手続きと書類が必要になるの?

現在ご質問者に相続が発生したとした場合に必要な相続での資産移転の手続きを見てみましょう。相続における名義変更では手続きに必要書類の準備がありますが、一般的に必要な書類は以下になります。

・相続人全員を確認できる被相続人(ご相談者)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
・名義変更する相続人の戸籍と免許証などの本人確認書類、および印鑑証明書
・遺言書、または遺産分割協議書(*相続人が1人であることを明らかにすれば不要)

保有する資産の種類が多い場合、相続の手続きは確かに煩雑になります。相続の主な手続きは、財産の名義変更と相続税の申告・納税の2つに分けられますが、そのどちらもそれなりの負担となってしまいます。

具体的に、どうやって手続きを行う?

ご所有の資産で、大きな負担となるのは不動産(投資マンション)の名義変更でしょう。不動産の相続登記は法務局(登記所)に申請書と必要書類を提出することで行います。登録免許税を算出するために、不動産の評価証明書なども入手しなければなりません。手続きを自分で行う場合は大変ですが、一般的には司法書士に手続きを依頼することとなります。

また、現預金や株式、投資信託など、金融機関の口座に預けられている資産に関しては、金融機関ごとに多少手続きの流れが異なりますが、相続を証する書類等の用意とともに、口座の名義変更か口座内の資産の振替手続きを金融機関ごとに行うことになります。

iDeCoは受け取りの60歳前の運用期間になります。加入者が60歳より前に亡くなった場合、相続人がその全てを「死亡一時金」として受け取ります。ただし、受け取れる金額は、加入者が亡くなった時点の時価ではなく、運用中の投資信託などは所定の日に売却され(指定できません)、現金化された上での受け取りになります。

金地金は現物を預けている場合は預け先に相続の名義変更の手続きをすることとなります。

税務手続きは、投資マンションを2部屋ローンで購入したら借入が多くなったとのことで、投資総額より負債総額の方が大きいようですので、現在のところ相続税は掛かりませんので手続きも不要です。ただまだ先のことにはなりますが、将来の相続時において財産が基礎控除(3,000万円+600万円 × 法定相続人の数)を超えた場合に相続税申告・納税手続きが必要となります。

また投資マンションの所有により不動産収入がありますので、ご質問者である被相続人の生前のその年度の所得税の準確定申告を相続日から4カ月以内に行わなければなりません。

現金化して集約しておくべき?

上記のように将来的には財産をまとめるか、現金化するのが良いと考えておられ、良い方法があるかどうか、ということですが、これは絶対の正解はないので私見を述べたいと思います。

相続手続きを考えれば将来的には現預金と株式等の有価証券の金融資産だけにしておくと、相続人にとっては手続きが楽かと思います。ただし、私がご質問者の立場であった場合にどうするかと言うと、元気なうちにあえて自分の資産運用やライフプランに制約を課してまで、現金化や資産の集約はしないかなと思います。病気などで死期が見えた際には財産の整理により現預金と株式等の有価証券の金融資産にするというのは相続人のことを想い、その時の考えで行うかもしれません。その時に子どもが遠方かどうかなども判断材料でしょう。

財産一覧の作成や必要書類を用意しておく。生前贈与も一考を

実務的な話として、実際の相続の現場では相続手続き自体よりも、どのような財産がどこにあるのかという洗い出しが大変であったりします。特に子どもが独立し同居しなくなった場合はなおさらです。そのため、いつ不測の事態があるかも分かりませんので、どのような財産をどこに持っていて、連絡先はどこか、身分証や貴重品の在りかの財産の一覧を作成しておき、さらにご質問者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等までご用意しておけば完璧ですが、その置き場所を子どもに伝えておくといいのではないでしょうか。

逆にこのような一覧により整理がされていれば、相続手続きは確かに面倒ではありますが、子どもの負担も軽くなります。

また、生前贈与してしまえば相続手続きもなくなりますので、現金化とともに生前贈与も検討されるといいでしょう。留意事項としては、相続税の計算では相続前3年間に贈与した財産は相続税対象です。また、現在、相続贈与一体課税という相続贈与課税の枠組みの大幅な変更も検討されているので、この動向も見ておきましょう。

法人化や信託の活用など現金化以外の選択肢も

現金化以外に相続の手続きを簡便にするための方法として、法人化や信託の活用という選択肢も考えられます。これは法人や信託の形で財産を集約することで、名義変更の手続きの回数を減らそうという発想です。相続手続きの簡素化を主目的というよりは税対策や認知症対策が主目的かとは思いますので、あくまで簡単なご紹介のみとします。

●法人化
資産を管理する法人を作り、そこへ財産を移してしまえば、相続の際に発生する名義変更はその法人の出資持分のみとなるので、相続手続きの手間は大幅に少なくなります。法人の所有権たる株式・出資者の名義が変われば、法人の財産自体には名義変更はいらないからです。ただ、個人で財産を所有していれば所得税、法人が財産を所有することにより法人税になり、また、財産の法人移転にコストも掛かりますので、主としては法人化による所得税・法人税の税金対策を実行するかどうか考えることが一般的です。

●信託の活用
他に信託の活用という手もあります。信託とはもともと、自分の財産を信頼できる人や法人に託して、自分の決めた目的に沿って管理・運用してもらい、あらかじめ定めた人へ受益してもらうための制度です。信託には委託者、受託者、受益者の三者が登場し、それぞれ以下のような役割です。

委託者……財産を元々所有していた人
受託者……財産の管理や運用を託された人
受益者……財産からの利益を受け取る人

「家族信託」というものが有名です。ご自身の認知症対策(子どもを受託者にして、自分が認知症になっても子どもが財産の管理を行えるようにする)としてこの仕組みを活用したいという場合は良いのですが、そのような特別な目的がなければ、今回のようなケースではお勧めというわけではありません。

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