「プロレスリングマスター」こと武藤敬司(58)が代名詞・ムーンサルトプレス(月面水爆)の“永久封印”を宣言した。6月6日に丸藤正道(41)に敗れたGHCヘビー級王座戦で解禁したが、その後の周囲やファンの声、そして自らの美学に従い決断したという。一方で化身のグレート・ムタには、同27日のノア配信大会で対戦した拳王(36)を触媒に新たな進化の兆しが…。
「もう、やらねえよ。あれで、最後だ」。武藤は晴れ晴れとした表情で、月面水爆の封印を宣言した。
きっかけは、GHC王座から陥落した6月6日の丸藤戦。2018年3月に両ヒザの人工関節置換術を受けて以来、初めて必殺技を解禁し大きな話題となった。だが、その行為は大きな危険をはらんでいた。武藤はこう告白する。
「こうしてインタビューを受けていられるのも、運が良かったからにすぎねえんだよ。もし運が悪かったら大腿骨がボキッと折れて、一生歩けなくなっていたかもしれねえ」
当然、試合直後に医師から怒とうのお叱りを受けることに。幸い2週間後の定期検診で「もし壊れていても、取り換えられない」という人工関節が無事であることが確認されたが、天才にとってショックだったのがファンの反応だった。
「月面水爆を『もう見たくない』って言うファンの人も多くてね。俺のことを案じてくれて『ずっと武藤の試合を見ていたいから、もうやらないでくれ』って言うんだよ。それで後悔したんだ。そんな切り札を、120%の力を出して試合をやったことにさ」
それを踏まえて反省した結果、自己嫌悪すら感じたという。武藤は「変な話、6~7割の力でお客を手玉にとれるようなレスラーになりたくて、今までやってきたわけじゃん。それなのに120%出した時点でさ。美学に反する? そうっすね。それに、月面水爆に匹敵できる技や展開をつくれない自分の未熟さというか」と首を振った。
だが天才はそれで迷い、トンネルに入るほどヤワじゃない。「だから違った説得力のあるものをね。ムーンサルトに匹敵できる技は生まれないよ。だけど、違った形のプロレスを表現していくしかない」と新境地到達を誓った。
一方で化身のグレート・ムタはひと足先に新境地が見えつつあるという。先月27日に久々に現世に現れ、拳王に毒霧と閃光魔術弾を放ってやりたい放題だった上に「勝っただけじゃなくて新しい技のヒントも持って魔界に帰って行ったよ」。
自らの脚に火をつけた拳王の“火炎キック”を浴びたものの「次はあれをパクってヌスット(盗っ人)ムタになろうかなって言ってたぞ」。ムタと武藤の蹴り技といえば言わずと知れた閃光魔術弾があるが、まさかの“閃光火炎魔術弾”に進化を遂げるとでもいうのだろうか。ともあれ、ベルトは失ったものの、さらなる進化を遂げそうな大ベテランがさらにマット界を盛り上げてくれそうだ。