複数の証券会社に口座を持つことの意味はどこにある?実際の使い方

オンライン証券会社の口座開設は簡単なので、複数のオンライン証券会社に口座を開いた方が良いと言われます。その理由と、複数の口座を持つことはどういう場合に必要なのか、実際の使い方について考えてみました。


【第1回】なぜ証券口座を開く必要がある?証券会社選びの決め手を突き詰めて考える

【第2回】証券会社に口座を開くなら基準はどこ?「個人の証券取引はオンライン証券を選ぶ理由」

複数証券会社に口座を開く意味はない?

「複数のオンライン証券会社に口座を開いた方が良い」ことの理由としてよく言われるのが、「手数料の安いところを選んで注文を出せる」とか、「商品選択の幅が広がる」といったことですが、株式や投資信託を取引するのであれば、どの証券会社を選んでもそれほど大差ありません。

たとえば株式の委託手数料を比較してみましょう。1日定額ではなく、取引ごとに手数料が取られるという手数料体系で、取引金額は50万円を想定してみます。

この条件で最も安い手数料を提示しているオンライン証券会社の手数料が、1回の取引につき198円です。対して、同じオンライン証券で最も高いところだと495円なので、両者の間には2倍超の差があります。

手数料が2倍違うとなると、恐らく多くの人はなるべく手数料の安いところを選ぼうとするでしょう。
でもよく考えてみて下さい。198円と495円の間の差額は、金額にすると、297円です。仮に取引金額が50万円ちょうどだとすると、297円は率にして0.059%です。これが実際の取引にどれほどの差になるというのでしょうか。

50万円の投資金額で1単元=100株の取引を買ったと仮定してみましょう。この場合、1株=5000円の株価で100株買ったことになるわけですが、この取引において、297円という手数料の差額がどのくらいの影響を持つのかを考えてみて下さい。5000円に対する0.059%ですから、2円95銭。約3円です。つまり297円という手数料の差は、1株5000円で買うか、5003円で買うかの違いでしかありません。

もちろん、それこそ億円単位の額で1日のうちに何度も売買を繰り返すような億トレーダーなら、297円の差が積りに積もって、結構な金額になるのかも知れませんが、数10万円程度の金額で、月に数回程度の取引しかしない人にとっては、本当に微々たる差でしかないのです。

また投資信託など商品選択の幅に関しても、最近はどのオンライン証券会社も多数の投資信託をラインナップしているので、「この証券会社で無ければ欲しい投資信託が買えない」といったケースはほとんどないと思われます。

したがって手数料や商品選択という理由で複数の証券会社に口座を開いたとしても、それほど大きな効果にはつながりません。

IPOの当選確率を上げたいなら複数口座を開こう

とはいえ、ある特定の投資をしたいという人は、ひとつの証券会社ではなく複数の証券会社に口座を開いた方が良いと思います。

その投資とはIPOです。IPOとは「新規公開株式」のこと。つまり東証1部や東証マザーズなどに新規上場される株式にどうしても投資してみたいという人は、複数の証券会社に口座を開いた方が、IPOに当選する確率が高まります。

IPO投資は個人の間でも人気が高いのですが、その理由は、初値が公募価格よりも高くなるケースが多いからです。公募価格とは、IPOの抽選に参加して当選した人が買う時の株価です。そして、初値はIPO銘柄が上場された日に取引所で付いた株価です。

2021年にIPOされた銘柄の初値を見ると、その多くが公募価格を上回っています。3月18日から6月18日までの3カ月間でIPOされた銘柄数は27銘柄ありますが、その全てが公募価格を上回る初値をつけています。ちなみに4月15日に上場されたサイバートラストは、1660円の公募価格に対して、初値は6900円でした。16万6000円の投資額が、上場当日に69万円になったのです。

誤解のないように申し上げますが、すべてのIPO銘柄がここまで値上がりするわけではありません。とはいえ、多くのIPO銘柄の初値が公募価格を上回っているのを見れば、IPOの人気が高まるのも当然でしょう。

前述したように、IPO銘柄は申し込んだ人、全員に配られるわけではありません。人気が高いので抽選になります。

抽選ということは、ひとつの証券会社から申し込むのではなく、出来るだけ多くの証券会社から申し込んだ方が、当選する確率が高くなることを意味します。IPOに当選するという目的を達成するためにのみ、複数の証券会社に口座を開く意味があるのです。

IPO以外はひとつの証券会社に取引をまとめるのが得策

複数の証券会社に口座を持っていると、この投資信託は証券会社Aでしか扱っていないからとか、証券会社Bは株式の売買手数料が安いからといった理由でつまみ食いをしているうちに、気付いたら証券会社の口座がやたらと増えていたというケースがあります。

このようにして複数の証券会社に口座を開設するのは、資産管理という点ではあまり望ましいものではありません。特にオンライン証券会社の場合、ログインするためにIDとパスワードが必要ですが、複数の証券会社に口座を持つと、このIDとパスワードの管理が困難になります。

あるいは、資金が分散してしまうので、たとえば証券会社Aである投資をする際に資金不足になり、証券会社Bから資金を移動させなければならないといった事態が生じることも考えられます。

資産管理という点で考えると、株式や投資信託などの取引は一つの証券会社にまとめたうえで、IPOの時のみ当選確率を上げるために複数の証券会社を使うというような使い分けが望ましいでしょう。

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