1都3県の無観客開催が決まった東京五輪。政府と組織委員会に「無観客が望ましい」と提言した専門家有志には、神奈川県の阿南英明理事と中澤よう子医務監も名を連ねた。新型コロナウイルス対応の最前線で奮闘してきた2人は、「市民の命を優先に考えた上での決断」と口をそろえる。大会開催を推し進める自治体職員の立場を超え、医師の本分に立ち返って声を上げた。
「ワクチン接種が進んでおらず、感染状況の改善には至らない。感染の大きな波が来て、コロナ病床やICU(集中治療室)はあっという間に埋まる」。阿南氏は県内の感染状況に危機感をあらわにする。
阿南、中澤両氏は厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」のメンバーで、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が6月18日に打ち出した提言の作成にも加わった。
7~8月に感染が再拡大する予測を踏まえ、有観客の危険性を分析。緊急事態宣言などで国民に外出自粛を要請しながら大勢の観戦客を集めることは矛盾している、との主張に賛同した。
感染力が強いインド由来のデルタ株の陽性者は県内で260人に達した。阿南氏はその猛威に危機感を強め、「観客が買い物をすれば列ができる。人が集まればお祭り騒ぎにもなる」と有観客のリスクを分析する。