“誰かの手”届く社会に 刑事司法の変化と展望 シンポ「刑のゆくえ」

パネル討議で意見を交わす(左から)最高検参与の田島氏、日弁連会長の荒氏、検事総長の林氏=長崎新聞文化ホール・アストピア

 「生きる力の弱い人」に司法は、地域はどう向き合うべきか。社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)元理事長の田島良昭最高検察庁参与を懸け橋として、長年親交のある法曹界のトップ同士の“対面”が実現した。パネル討議では刑事司法の変化と展望について意見を交わし、村木厚子政府政策参与が「刑務所に行く前に、刑務所に戻る前に、誰かの手が届く社会をみんなの力でつくりましょう」とメッセージを発すると、会場から拍手が湧いた。

 壇上に並んだ検事総長と日弁連会長。司法と福祉の連携に長年尽力してきた田島氏は感慨深げだった。「2人の姿を目に焼き付けてほしい。わが国が大きく変わろうとしている」
 パネル討議では大きな転換点を迎えている司法制度が論点になった。刑法改正により「懲役という名前は消える」と指摘した林眞琴検事総長。「外の世界と連携するのは重要だと教えてくれたのが田島さん」と語り、「閉じた世界にとどまりがちな刑事司法は、徐々に外に開かれている」と述べた。
 荒中日弁連会長は刑法が変わり、刑罰が多様化する流れが生まれることで受刑者への目線が変わると話した。「(受刑者は)更生支援計画を実践し、地域で暮らす仮免許を持った人になる。それを本免許にするのは地域の人たち。刑事司法から地域住民に引き継ぐところで共同作業しないといけない」
 再犯防止の施策を国や自治体の責務と明記した再犯防止推進法についても議論が及んだ。荒氏は「当事者がどうやって地域で暮らしていくかイメージしながら刑事弁護することになる」と展望。「ひとごと、我がごと。生きづらさを感じている人たちのことを、我がごととして考えていくのがテーマ」とした。
 こうした司法の現状について田島氏は「随分変わった」。かつて刑務所を訪ね、障害のある人が多くいるのを目にした。「本当に福祉が必要な人が実は刑務所の中にいた。気付いたからには何とかしなければ」と思い、活動してきたと明かした。
 田島氏は罪を犯す人の特徴を「非常に孤立し、支える人がいない」とし、最近は高齢者、特に認知症の人の犯罪が増加していると指摘。家族や地域で支え合う力が薄れたことが背景にあるとみている。「ほんの昨日まで隣の住民だった人が問題を起こす。『明日はわが身』という思いまではみんな至っていないのでは」と問い掛けた。

パネル討議に耳を傾ける来場者

 今後の課題について「法律の建前と当事者の本音が離れてしまうと不幸」と述べ、自治体に対して「自分たちがやっていることはこれでいいのかと、常に考えながら前に進まないといけない」と注文を付けた。
 来場した長崎市自治振興課の古賀陽子課長(56)は「福祉とつながる重要性がよく分かった。困っている人をみんなで支えていかなければ」、同市式見町の無職、山崎幸子さん(68)は「罪を犯した人を遠のけるのではなく地域で見守っていくという話はそのとおりだと思った」と語った。


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