【高校野球】「1分を捻出」し、目指す67年ぶりの甲子園 名門進学校・水戸一の強みとは?

水戸一・木村優介監督【写真:川村虎大】

今春の県大会で45年ぶり4強、移動時間も惜しんでダッシュ

夏の甲子園出場をかけた第103回全国高校野球選手権・茨城大会が8日に開幕し、熱戦が繰り広げられている。注目校のひとつは、今春の県大会で45年ぶりに4強入りした県内屈指の進学校、水戸一。過去3度の実績がある夏の全国舞台は、1954年から遠ざかっている。学業と部活を両立している選手たちに対し、同校のOBでもある木村優介監督が求めることは至ってシンプル。「1分を捻出」することだ。【川村虎大】

授業終了のチャイムが鳴ると、制服姿の生徒たちがダッシュで部室に向かう。ただでさえ練習時間が短い水戸一では、移動の時間を惜しむのは当たり前の光景だ。他校とは違い、学力テストは学期ごとではなく毎月の行事。選手らは常に試験勉強に追われている。加えて、グラウンドは他の部活と共用。決して満足な練習環境とは言えないが、木村監督は選手に言い訳をさせない。

「うちが強豪私学に勝つためには、いかに『1分を捻出』できるかだと思うんです。勉強もあって練習時間が少ない。練習場所がない中で、いかに短い時間で集中できるか、環境を言い訳にしないことができるかが大事だと思っています」

その“1分”を捻出するため、メニューを前日に決め、当日までには生徒に共有。練習中に次に行うことを考える時間を減らした。グラウンド外でも意識は高い。学校の方針で練習時間は午後7時半まで。放課後は、ほとんどの生徒が3時間以上の自主学習を習慣化している。そのリズムは崩すことはできないため、朝礼が始まる前に練習したり、授業の合間にYouTubeの技術動画を見たりと隙間時間を有効活用する。

試合前日に全体練習は30分だけでも…日頃からの“制約”が生きた

時間や環境に制約がある中での練習は、結果に表れた。今春の県大会。準決勝の常磐大高戦で2点リードの9回1死から逆転を許して関東大会出場は逃したものの、4強入りは45年ぶりの躍進だった。快進撃のきっかけとなったのは、2-0で完封勝利を収めた3回戦の多賀戦。木村監督が選手たちの力を感じたのには、前日の練習に秘密があった。

「学校行事でクラスごとに福島や栃木に行き、帰ってくる時間はバラバラでした。皆、集まって練習ができたのは、30分くらい。それでも次の日に集中して勝つ事ができたのは、日頃から制約があり、イレギュラーな場面の中で、実力を発揮することができているからかなと」。いい流れは、準々決勝の藤代戦でも継続。3-1でリードしていながら雨天ノーゲームで翌日に仕切り直しとなったが、再試合では1-5で4点を追う8回に一挙7点を奪い、8-5で逆転勝利を収めた。

集中力は野球だけではなく、勉強にも生きている。昨年度、東大に合格した23人のうち、1人は野球部出身。難関大への進学実績もある。多くの選手が入学時から成績上位にいたわけではなく、引退後に一気に学力が向上するという。学年順位が下位だった生徒が、国立の北海道大に合格するケースもあった。

3年生にとって集大成の夏は、14日に麻生との初戦を迎える。手応えを感じた春をへて、木村監督は気を引き締める。「春の負けをどう捉えるか。実力自体はあるので、奢らずにやることが大事だと思います」。まぐれとは言わせない。67年ぶりの甲子園出場に向け、“1分を捻出する”野球が茨城をかき回す。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

© 株式会社Creative2