ベトナムで急増する「エフゼロインベスター」とは?ベトナム証券市場が一時パンク寸前だったワケ

現在ベトナムでは株式投資を始める人が急増しています。2021年1月から6月まで新規に開設された証券取引口座は62万口座に達し、その増加率は前年同期比で3.2倍となっています。この株式投資ブームの裏で一体 何が起きているのでしょうか?

今回は、藍澤証券グループのベトナム現地法人であるジャパン証券から、ベトナム株式市場の今をご紹介します。


株価最高値でも投資家人口は少ない

現在コロナの第4波に見舞われているベトナムですが、その中でも株価は好調で代表的な株価指数であるVNインデックスは史上最高値を更新しています。昨年7月から今年6月末までの上昇率は約76%とアジアではトップクラスであり、米国のS&P500(+31%)や日本のTOPIX(+30%)など他の主要国の株価指数も大きく引き離しています。

6月の売買代金の約9割は国内の個人投資家によるものでした。しかし証券口座を開いている人は国民の3%ほどしかおらず、株式投資はまだ広く浸透していません。また取引所が誕生して21年ほどしか経っていないためか、投機的行動が多いようにも見受けられます。

増加する「エフゼロインベスター」とは?

とはいえ、総口座数は今年300万口座を超えました。ベトナムでは初めて株式投資をする個人投資家をF0 Investor(エフゼロインベスター)と呼んでいます。ベトナムではコロナに感染した人をF0(エフゼロ)と呼び、エフゼロインベスターはそれになぞらえて生まれた言葉です。

こうした投資家の多くは、周りがやっているから自分もやってみようと株式投資を始めた人が多いです。そのため専門知識を持った投資家は少なく、ほとんどが株が上がっている今なら儲かるだろうと考えるビギナー投資家です。証券会社の多くが手軽なインターネット取引を提供しており、若者世代を中心に投資家層が拡大しています。

投資家が株式に向かう理由

しかしなぜエフゼロインベスターが急増しているのでしょうか。日本と同じくベトナムでも金融緩和が行われ、銀行預金は低下傾向にあり、より高いリターンを求めて預金から株式へのシフトが起こっています。

ベトナムで投資の対象となるのは主に株式、債券、不動産で、規制も多いため投資の選択肢は多くありません。例えば2019年から2020年にかけて不動産会社、銀行を中心に多くの上場会社が社債を発行し、個人投資家のマネーを引き付けました。しかし高利回りの社債はリスクが高く、当局が個人投資家向けに注意喚起するとともに、企業に対しても個人投資家向けの発行を厳格化しました。こうした規制も個人マネーが株式市場に向かう要因になりました。

パンク寸前のマーケット、取引所のあの手この手

2021年の株式市場は2018年4月につけた史上最高値を更新し、活況を呈しています。実は昨年から外国人投資家は売り越しているのですが、エフゼロインベスターがこれを上回る勢いで買い越しています。コロナ前は、1日の売買代金が2兆ドン程度(約100億円)の日もありましたが、直近は連日20兆ドン(約1,000億円)を大きく超えています。

昨年末以降、取引所の処理能力を超える注文が出され、注文が受け付けられない、VNインデックスが日中更新されないといった不具合も発生しました。6月1日には、ホーチミン取引所はシステムの安全性を確保するため後場の取引停止に踏み切りました。(※現在は通常通りの取引が行われています)。

今年1月より最低売買単位が10株から突然100株に引き上げられたのも、システムの負荷を抑えるのが目的と言われています。一見すると強引なやり方に見えますが、未熟なベトナム市場がより成熟したマーケットに発展する過程で起きた出来事であったと言えます。

2021年は改革の年か

2021年は証券市場の改革の年と言えそうです。投資家を取り巻く環境は大きく改善していくと見込まれます。例えば新証券法が施行され、空売りや受け渡し日前の売却ができるように準備が進んでいます。

また20年以上前から使われていたシステムが一新される計画で、国内の2大取引所が統合に向けて動き出すなど、国内投資家のみならず、海外マネーを意識した利便性と透明性の高い市場への改革が進んでいます。初心者向けのWebセミナーが開催されたり、より幅広い層を狙った投資アプリが登場したりと、証券投資がベトナムで市民権を得てきています。

新型コロナ第4波はなかなか収束しないですが、株価は史上最高値を更新し続けています。先日発表された第2四半期のGDP成長率は、前年同期比で+6.6%と強い数字でした。また肝心のベトナム企業の業績も2021年第1四半期は銀行、鉄鋼を中心に最高益を更新しました。

コロナの抑え込みやワクチンの普及が今後の企業活動に大きな影響を与えると思いますが、高い経済成長と証券市場の改革に後押しされ、今後も株式市場は活況を維持することが期待されます。

<文:アイザワ証券グループ ジャパン証券 北山亨>

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