「もう、いわゆる〝九州産〟のくくりではない」ヨカヨカを愛する人々

愛情いっぱいに育てられたヨカヨカ

【赤城真理子の「だから、競馬が好きなんです!!!」】

今週の栗東トレセンはセレクトセールの話題で持ちきり。でも、今日は少し前の6月22日に行われたセリ・九州1歳市場のことを振り返らせてください。

今年、上場番号1番の「テラノイロハの2020」(牡=父マクフィ)が九州1歳市場では歴代最高となる600万円(税別)で落札されました。同馬を生産したのは〝九州産の星〟として知られるヨカヨカ(牝3・谷)と同じ本田土寿さん。ヨカヨカの活躍が、九州産馬の評価を上げることにつながったんだ──。そう思うと、彼女を心から応援する一人として、とてもうれしく誇らしかったです。

ヨカヨカは1番人気に推された4日のCBC賞で悔しくも5着でした。最後の直線でフラフラしていたところを見ても、あの日できうる精一杯の走りは見せてくれたんだと思います。

レース前、私は栗東で彼女と初コンビを組む和田竜二騎手にインタビューをしていました。

「そこまで速い時計が出ている感覚じゃなかったんだけど、終わってみたら坂路4ハロン49秒台。多分、ジョッキーになって初めて出したよ」

1週前の追い切りを振り返ってそう明かしてくれた和田騎手。確かに50秒を切る坂路時計はなかなかお目にかかれるものではありませんが、和田騎手が「初めて出した」というのには驚きました。続けて、「全体時計だけなら出せても、しまい(ラスト2ハロン)11・9秒で上がってこれて、それでまだ余裕があったんだから大したものだと思う。天性のスプリンターって感じだった」と。

ヨカヨカは調教だと少しひっかかる時もあるイメージだったのですが、和田騎手によれば「ひっかかるとか、前向きすぎるとかとはちょっと違う。走ることにすごく真面目で、ひたむき」なんだとか。

それを聞いて、これまでヨカヨカに関わってきた方々のことを思いました。彼女がトレセンに来たばかりのとき、ニンジンをねだる様子を見て担当の川端強助手が「ニンジンって、2歳馬は食べない子も多いんですよ。競走馬にとってはどちらかといえば嗜好品…ごほうびのオヤツみたいなものだし、値段も高いから、まだキツイ調教をしていない子供時代は与える必要がない。だから最初は食べ物だって分からない感じなんです。でも、ヨカ(ヨカヨカの愛称)は最初からニンジンが大好きみたいで。生産牧場の方があげてたんだな、かわいがられてたんだなって分かります」と目を細めていました。いい話だなと記事に書いたところ、生産者の本田さんからご連絡をいただき、「ヨカヨカは本当に、子供のころからニンジンが大好きだったんです」と。

彼女の出走時には必ず現地に赴き、全力応援をされていることでも有名な本田さん。ヨカヨカの記事を読んでくださってのひと言にも、愛情が詰まっている気がしました。

そして、担当の川端助手。いつも優しく、信心深い方でもあり、担当馬の出走前には1週間を通して朝の仕事後に寺社仏閣巡りに行かれたりしています。厩舎では川端助手が担当馬に話しかけながらお仕事をされているのをよく見かけるのですが、ヨカヨカが昨年のファンタジーSに出走する前、「ごめんなヨカ、もうちょっとだけ待っててや~」と。何を待たせているんだろう?と聞いてみたところ、「ヨカはもう追い切り後の手入れまで終わってるんやけど、ご飯を待ってもらってるねん」と言うのです。

牝馬にはありがちなのですが、ヨカヨカも追い切り後だとあまり積極的にご飯を食べる方ではなく、体重が減りすぎないよう苦労していた川端助手。試行錯誤をした結果、「ちょっとじらして、隣の馬房と同じタイミングでご飯を出すと、隣の馬の食べっぷりにつられてたくさん食べるようになってくれた」そうなのです。その時隣にいたのはトーホウグロリアスという大食漢だったので、余計に助かっていたんだとか。厩舎の方にとっては「日常の一コマ」なのかもしれないけれど、こうして一頭一頭の個性を見守りながらの毎日がレースの〝一瞬〟につながっているんだなと感じたエピソードでした。本田さんから託されたバトンは、同じだけの熱量を持って谷厩舎に受け継がれていると思います。

結果的にだったとはいえ、熊本産馬として37年ぶりにクラシックへ参戦した桜花賞。そのとき、鞍上を務めた幸騎手が「ヨカヨカはもう、いわゆる〝九州産〟のくくりではない」と言っていました。CBC賞前にそれをお話ししてみると、和田騎手も「うん、その通り。今までの九州産の常識を覆したすごい馬だよ。今後に注文をつけるとしたら…ゲート中でちょっとイヤイヤするところがあるから、そこも〝ヨカヨカ〟になってほしいな(笑い)」と、最後はジョークも交えながら、ヨカヨカへの高い評価を語ってくださいました。

これまで、縮めようがないほどの大きな力差があるとされてきた北海道産馬と九州産馬。でも、ヨカヨカが突破口を開いてくれた今、生産者の本田さんの願いでもある「九州産馬を牝馬クラシックに、皐月賞に、ダービーに送り出す」という夢がもうすぐそこまで見えてきている気がします。私も同じ九州産(鹿児島県出身)として…なんて言ったら恐れ多いけど、ヨカヨカのこれからの活躍が楽しみでなりませんし、谷厩舎の担当記者として、彼女に関わる方々の思いを少しでも伝えていけたらと思っています。

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