理想は巨人・小林誠司 女子ソフト界の強肩捕手はマリーンズジュニアを経験した逸材

トヨタ自動車・切石結女【写真:荒川祐史】

小6時に狭き門を突破してマリーンズジュニアの一員に

日本女子ソフトボールリーグでは5月、トヨタ自動車が完全試合の翌日にノーヒットノーランを達成する快挙を成し遂げた。どちらの試合でもマスクをかぶっていたのが、将来性豊かな21歳の切石結女(きりいし・ゆめ)捕手。野球をしていた小学生時代にはマリーンズジュニアのメンバーにも選ばれた強肩捕手だ。

「おりゃあ!」。愛らしい表情からは想像できないような力強い声が室内練習場に響く。盗塁を想定した練習。切石が放つホームから二塁への送球は、投手の頭のわずか上を通り、スピードを保ったままセカンドベースまで到達する。

「小学生の頃に肩が強かった記憶はないですね。野球をしていた経験が活きているのかなと思う」。

切石の代名詞ともいえる強肩は、小学生時代に築かれた。野球一家ではなかったが、小学1年生の終わり頃、友達に誘われて近所の公園でやっていたチームに顔を出したのが、野球を始めたきっかけだった。当時は一塁手。体が大きく、チームメートの男子と比べてもパワーは負けていなかったと振り返る。小学6年の時には、倍率20倍以上という狭き門を突破し、マリーンズジュニアのメンバーに選ばれた。本人は「たぶん女子だったからだと思う」と謙遜するが、その能力は高く評価されていた。

ただ、中学生になると、将来のことを考えて実業団のあるソフトボールに転向した。そこで初めて自分の肩の強さに気が付いた。「ソフトボールは野球より距離が近いので軽く投げられた。これは武器になるかもしれないと思った」。5年以上続けていた野球で肩が鍛えられていた切石は、ここから捕手としての道を歩み始める。

強肩を活かすために心がけていることがある。まずは、キャッチボール。試合で捕手が外野まで送球することはない。塁間の送球を可能な限り速くできるよう「高校に入ってからずっと、キャッチボールでなるべく弾道の低いボールを投げることを意識している」と話す。

トヨタ自動車・切石結女【写真:荒川祐史】

巨人・小林の動画を見てスムーズなステップを学んでいる

さらに、重要視しているのが送球のコントロールと無駄のない動き。カギとなるのがステップだ。「ソフトボールは塁間が短い分、どれだけステップを速く踏めるかが重要になる。安定した形を身に付けて、コントロールの精度も上げないと盗塁は刺せない。まだまだ課題だと思っている」。試合では焦りが出ることもあり、二塁への送球が一塁方向へずれることがあるという。理想とするのは、巨人・小林誠司捕手のスローイング。動画を見ながら、スムーズなステップを学んでいる。

捕手は扇の要。切石はスローイング以上に、コミュニケーションと配球を大切にしている。プレーは捕手がサインを出すところから始まるため「投手も野手も動かすのが捕手の役割。チームのみんなから信頼されることが一番の目標」と捕手像を描く。トヨタ自動車で4年目を迎え、打者のスイングや見逃し方を観察しながら、投手の良さを引き出す配球ができるようになってきたと自身の成長を感じている。

5月8日のシオノギ製薬戦で完全試合を成し遂げた三輪さくらをリードする時に意識するのは「打者の裏をかくリード」。多彩な球種の中から軸になる球を決め、打者に狙い球を絞らせない。また、三輪は考えて投球するタイプのため「2人で考え始めるとテンポが悪くなる。緩急を使って打たせて取るのが持ち味なので、テンポが大切になる」と呼吸とリズムを合わせている。

一方、翌9日の豊田自動織機戦でノーヒットノーランを達成した後藤希友がマウンドに立つと「強気の配球」に変わる。「後藤は分かっていても打てない真っすぐを投げる。スピードもキレもコントロールもいい。考えて投げるタイプではないので、強気で攻めるリードをするとついてきてくれる」。力で打者を制圧するシンプルな組み立てで、リーグ屈指の速球を活かしている。

切石は高校2年からトヨタ自動車1年目まで日本代表の強化指定選手に選ばれるなど、潜在能力や将来性は抜群。武器とする強肩に磨きをかけ、捕手に必要な経験を積み重ねれば、女子ソフトボール界の顔になる日は決して遠くない。(間淳 / Jun Aida)

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