トヨタの可夢偉、優勝を喜ぶもトラブル頻発に「ル・マンでは絶対に許されない。まだ相当な努力が必要」/WECモンツァ

 7月18日(日)、イタリアのモンツァ・サーキットでWEC世界耐久選手権第3戦モンツァ6時間レースの決勝が行なわれ、トヨタGAZOO Racing(以下TGR)のGR010ハイブリッドが厳しいレースを戦い抜き、開幕から3連勝を飾った。

 マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペスの7号車GR010ハイブリッドは、ハイパーカーカテゴリーでの強力なライバルとの接近戦を制し、今季初勝利を挙げた。204周を走り抜き、2位の36号車アルピーヌA480・ギブソンとの差は60.908秒だった。

 開幕2戦を制して今戦に臨んだセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレーの8号車GR010ハイブリッドは、テクニカルトラブルに見舞われ、総合33位でチェッカーを受けた。

 この結果、TGRは首位につけるWECチーム選手権での、アルピーヌに対するリードを30ポイントへとさらに拡大。ドライバーズ選手権の争いは激しさを増すこととなり、8号車と7号車の差は6ポイントに縮まっている。

■8号車は燃圧系統とハブのトラブルで勝負権を失う

 現地時間正午にスタートが切られた決勝レースは、序盤2台のGR010ハイブリッドによる接近戦が繰り広げられた。

 ポールポジションからコンウェイのドライブでスタートした7号車は首位を守り、僅差でブエミの8号車がこれを追った。最初の2スティントまでは、2台は数秒差での周回を続けていたが、スタートから1時間半ほどが経過し、8号車がハートレーへと交代した直後、状況は一変した。

 8号車は燃圧系統のトラブルに見舞われ4分半ほどピットでの作業を余儀なくされた。21位で一旦コースに復帰したものの、すぐに車両左フロント部の破損のために更なるピット作業を強いられ、8号車は12周遅れとなり上位争いからは完全に脱落する。

 その後、コース上の異物によりセーフティカーが出される中、7号車を駆るロペスは首位を守り、レースが半分を過ぎた時点で2番手に22秒のリードを築いていた。

 しかし、8号車には更なるトラブルが襲いかかり、チームは燃料系の部品を交換することを決意。この複雑な作業には48分を要した。

決勝中、トラブルが頻発した8号車GR010ハイブリッド

 レースが残り2時間を切るころ、首位の7号車は突然のエラーメッセージによりコース脇にストップ。しかし可夢偉は的確に再起動作業を実施し、1分ほどのタイムロスで首位のままレースに復帰する。

 このアクシデントのあと、グリッケンハウスの709号車が一旦は首位に立つが、こちらもトラブルによる修復のためにピットイン。可夢偉の7号車は首位を奪還したが、今度はタイヤのパンクに見舞われ、予定外のタイヤ交換ピットイン。首位アルピーヌを追う形となる。

 可夢偉は最速ラップを更新するハイペースでアルピーヌとの差を詰め首位を奪還、コンウェイへと交代する。

 残り34分というところでフルコースイエローが出されると、このチャンスに7号車は最後の給油ピットイン、首位の座を着実なものとし、そのままコンウェイがトップでチェッカー。7号車が今季初勝利を挙げた。

「TGRにとって、今日は実りある素晴らしい一日でした」と村田久武チーム代表は述べている。

「7号車のクルーは真のファイティングスピリットを見せてくれ、それがシーズン初勝利という形で報われました」

「8号車はトラブルに悩まされ、3連勝を勝ち取ることができなかったことは、一貴、セバスチャン、ブレンドンに申し訳なく思います。ただ、決して諦めず、必死にクルマをレースに戻そうとしてくれたメカニックたちには感謝を伝えたいですし、また、そのためにチーム全員が大変な努力をしてくれました」

「ディフェンディングチャンピオンとしてタイトルを死守すべく、そして、ハイパーカーでの記念すべき初優勝を目指し、我々の目はもう、ル・マンに向いています。そのゴールを達成するために、やるべきことがまだたくさんあります」

  チームは本拠地のドイツ・ケルンに戻り、今回発生した技術的な問題を徹底的に調査、8月21〜22日に予定されるシーズン最大のイベントであるル・マン24時間レースへ向けての準備を進める。

* * * * * *

 WEC第3戦決勝を終えたTGRの6人のドライバーのコメントは、以下のとおりだ。

■「7号車はチームとしてまとまっている」と小林可夢偉

■7号車トヨタGR010ハイブリッド(決勝1位)

●小林可夢偉

「我々7号車はシーズンの序盤2戦からそうでしたが、レースウイークを通して速かったです。過去2戦では運に恵まれず、今日もいくつかトラブルに見舞われましたが、ようやく勝つことができました」

「この週末のレースで、ル・マンでは絶対に許されない信頼性の問題が発生し、まだ相当な努力が必要だということを示したと思います。7号車は本当に強くなっていますし、チームとしてまとまっているので、今年のル・マンは大きなチャンスだと思っています」

「今日はモンツァで勝つことができて本当に嬉しいですし、ここで勢いが得られたことは、次に待つ最大のレースへ向け、とても重要です」

●マイク・コンウェイ

「モンツァは素晴らしいコースだし、ファンの皆さんも戻ってきたこのレースで勝つことができて最高の気分だ」

「GR010ハイブリッドはレースウイークを通じて好感触で、走行を重ねるごとに調子を上げていった。決勝レースでは、必要なときに後続との差を広げることができ、ペースも良かった」

「終盤は可夢偉のトラブルやタイヤパンクなどもあり、一進一退の攻防となったが、首位を守りきることができ、面白いレースだったと思う。今季初勝利を手にすることができて本当に嬉しい。8号車は大変な一日となったが、7号車についてはとても満足している」

●ホセ・マリア・ロペス

「何が起こるか分からないのが耐久レースだが、今日は本当にさまざまなことが起こった」

「とんでもないレースだったが、我々は着実に走り抜き、勝利した。レースは常に最速の車両が勝つというわけではないが、我々7号車はこの週末最速であり、このことは次戦ル・マンへ向けてとても励みになる」

「レース前の全てのセッションでトップタイムをマークし、ポール・トゥ・ウィンを飾るというのは、なかなか無いことだが、それをともに成し遂げてくれた可夢偉とマイクを誇りに思っている」

「エンジニアやメカニックといったチームクルーも全員がとても良く頑張ってくれた。TGR全体としては大変なレースだったが、さらに強くなってル・マンに臨みたいと思う」

優勝し表彰台に立つ7号車GR010ハイブリッドのクルー

■8号車トヨタGR010ハイブリッド(決勝33位)

●中嶋一貴

「私がドライブするときには、すでに修復のために大きくタイムを失っており、できることは安全に8号車をチェッカーまで走らせることだけでした」

「8号車を完走させるために大変な作業をこなしてくれたメカニック全員に感謝するとともに、優勝した7号車を祝福します。彼らの戦いぶりは勝利に値する素晴らしいもので、チームとして連勝できたことも良かったです」

「ル・マンはもっとスムーズなレースになることを願っています」

●セバスチャン・ブエミ

「我々にとってはとても難しいレースになってしまったが、全力は尽くした」

「序盤は順調で、僅差の2位で7号車についていけた。その後、燃料系のトラブルに続き、ホイールハブにもトラブルが発生した。6時間のレースではこれらのトラブルで失った時間を取り戻すのは難しく、我々にできることはあまりなかった」

「選手権ポイントを多く獲得できなかったのは残念だ。ル・マンまでにはこの問題を克服しなくてはならない」

●ブレンドン・ハートレー

「今日が我々の日ではないのは間違いない。しかし、ル・マンではなく、モンツァでこのようなトラブルに見舞われたことは良かったと思う。ル・マンはシーズン1年で最も勝ちたいレースだ」

「我々の8号車は燃料系のトラブルに見舞われ、修復のためにピットイン、その後ホイールハブのトラブルも発生した」

「ドライバーズポイント争いでは差を詰められてしまったが、まだシーズンは続くし、こういうことがあるのがモータースポーツだと分かっている。ル・マンへ向けて仕切り直す」

WEC第3戦モンツァ トヨタGAZOO Racingの8号車トヨタGR010ハイブリッド

© 株式会社三栄