「分身ロボットカフェ」でリモート接客されてみた 予約困難の人気の理由は【にっぽん食べ歩き】

 障害のある人や遠隔地に住む人がロボットを通してリモートで接客する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」が東京・日本橋に開店。75分の予約制で週末などは席が取りにくいほどの人気になっている。(共同通信=中村彰)

入り口で「OriHime-D」がお出迎え

 カフェが開店したのは、大通りに面した角地にあるオフィスビルの1階。自動ドアを抜けると、身長120センチの自走式ロボット「OriHime-D」が「いらっしゃいませ」とお出迎え。「パイロット」と呼ばれるスタッフが遠隔で操作し、食事かカフェの利用かなどを尋ねるとともに、天気などの話題で和ませてくれる。

「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の店内

 遠隔で働くパイロットは筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、多発性骨髄腫、頸椎けいつい損傷などで外出が難しい人や、海外在住者が務め、延べ50人超が登録している。東京都の最低賃金(時給1013円)以上の報酬が支払われるという。

 食事ができる「OriHime Diner」のエリアには、4人掛けのテーブルが8卓。それぞれに遠隔で働くパイロットが付き、卓上ロボット「OriHime」のカメラとマイクを通じて注文を取りキッチンに伝えるなどの仕事をこなす。

担当してくれた臼井美嘉さんを映し出すモニターと卓上ロボット「OriHime」

 担当してくれたのは、福岡市に住む「うーさん」こと臼井美嘉さん(39)。心臓に持病があり、小学生の男の子が2人いることもあり、遠隔で働くことを選んだ。

 まずはiPad(アイパッド)の画面を通じてメニューを選ぶ。岡山・蒜山ジャージー牛のローストビーフがお薦めで、いち推しは「ロービーバーガー」とのことだった。あっさりしたものを食べたい気分だったので「季節野菜パワーサラダ」(2500円)を注文。3種あるトッピングからローストビーフを選んだ。

メニューの一つ「季節野菜のパワーサラダ」

 ローストビーフはしっかりとうま味を閉じ込めた逸品。味わい深い野菜とともに、一気に平らげてしまった。

 メニューはほかに、「DAWN特製スパイスカレー」「ロービープレート」「塩麹漬けマグロのポキライスプレート」(各2500円)、「季節のスイーツプレート」(1800円)、「キッズプレート」(1000円)がある。

ドリンクを配膳する自走式ロボット「OriHime-D」

 注文などの事務的なやりとりだけではなく、雑談や世間話ができるのが楽しみの一つ。東京ディズニーリゾートでの接客経験がある臼井さんは話し上手だ。

 福岡のおいしいものや、臼井さんがかつて埼玉県に住んでいたことから映画「翔んで埼玉」の話題などで盛り上がり、持ち時間の75分が瞬く間に過ぎた。画面でペットのウサギ・ピーターや、息子さんの誕生日に手作りしたケーキなどの写真も見せてくれた。

 リモートでの働き方について臼井さんは「無理をしたり、家庭を犠牲にしたりという選択を迫られる場面がないので仕事をしやすい」と評価。「いろいろな働き方やライフスタイルのきっかけになったらうれしい」と話していた。

介助ベッドなどを備えたトイレ

 店内はフルフラットで、介助ベッドやオストメイト用設備のあるトイレを設置。食事支援が必要なゲストのためにミキサーや、飲み込む力が弱い人向けのゼリー飲料などを用意している。

 運営するオリィ研究所は、3年半の不登校経験を持つ吉藤オリィCEOらが「孤独の解消」を目指して2012年に設立。「分身ロボットカフェ」は18年から4回、延べ38日間の実験を行い、約5000人を集客。今回、初の常設店出店にこぎつけた。

「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の外観

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