【東京五輪】JOC杉山文野理事が激白「トランスジェンダー選手を批判するのは筋違い」

本紙インタビューに応じた杉山氏

東京五輪は23日に開会式を迎えるが、選手村では新型コロナ陽性者が確認され、開会式に携わっていたミュージシャンが電撃辞任する事態となるなど騒がしい。一方で今大会は「多様性と調和」基本コンセプトの1つになっている。そんな中、心と体の性が一致しないトランスジェンダーで6月に日本オリンピック委員会(JOC)理事に就任した杉山文野氏(39)が本紙インタビューに応じ、五輪やスポーツ界への思いを激白した。

――1年延期となった東京五輪がいよいよ開幕する

杉山氏(以下杉山) 今まで時代の中でいろんなことがあったと思いますけど、こんなに考えさせられる五輪もないんじゃないかなと思います。

――今大会は「多様性」も重要なテーマの1つ。JOCは夏季五輪で初めて日本選手団に副主将を置き、卓球女子の石川佳純を起用。また、旗手も男女1人ずつ起用した

杉山 単に男女を置けばいいわけじゃないという批判があるかもしれません。しかし、そうだとしてもこのような取り組みを行い、可視化させていくことはすごく大事だと思います。

――今年2月、大会組織委員会の森喜朗会長(当時)の女性蔑視とも受け取れる発言が問題となった。これに端を発してジェンダーにおける議論が活発になったような印象を受ける

杉山 あれは非常に象徴的でしたよね。あのような発言は今までどこでも言われていたことで、嫌な思いをしている人が泣き寝入りせざるを得なかったのですが、批判や声が上がるような時代になったということは大きな変化なんじゃないかなと。経験上、何か起きると嫌な思いをすることもあるのですが、必ず一歩前進するんですよね。

――自身は6月にJOC理事に就任。その際、JOCが「本人に確認して女性枠で選出した」との説明を訂正した

杉山 JOCだけでなく日本のスポーツ界全体として性的指向や性自認に対する意識が低いのは現実だと思います。ただ、今回は単なるコミュニケーションが大きく、僕ももっと丁寧に伝えればよかったと反省しています。僕は戸籍上「女性」なので、公的な書類手続きで問題になることがよくあります。今回も住民票やパスポートの情報を元に役員登録が行われると聞き、フェンシング協会には書類上のトラブルが起こらないよう、手続きを進めてほしいとお願いしました。そうしたところ、JOCに伝わるときには「女子の登録で」が「女子でお願いします」に少しずつニュアンスが変わってしまったと。

――JOCはかねて目標にしていた女性理事の割合40%を達成した

杉山 僕が女性理事の登録でなくても40%には達しているところは間違えないでいただきたいのですが、そもそもこのような割合を気にしなくてもいい社会にしていきたいですよね。トランスジェンダーであることをオープンにして入ったのは僕だけですが、今までだっていたかもしれないし、今もいるかもしれません。性に限らず多様な視点をもった人が増えるといいと思います。

――男女の「枠」以外にも目を向けなければいけない

杉山 JOCに限らず社会全体で二元論みたいなものの限界が来ているように感じます。例えば五輪とパラリンピックの境界線もなぜコンタクトはよくて義足はダメなのか。国別対抗に関しても何をもって「日本代表」というのか。八村塁選手や大坂なおみ選手など、以前に比べ日本選手のルーツも変わってきています。いつも0か100かの議論になりがちですが、本当に大事なのは0から100までの間にある一つひとつです。みんなで一緒に考えて次の時代に進めるタイミングに来ているかもしれませんね。

――今大会は重量挙げ女子に男子から性別移行したローレル・ハバート(ニュージーランド)が、史上初のトランスジェンダー選手として出場する

杉山 トランスジェンダーの元アスリートとしては非常に喜ばしいこと。五輪憲章はあらゆる差別を禁止しており、一定の属性の人がスポーツ界から排除されてはならない。その点と競技における公平性の両立をどう担保するかなのですが、少なくともローレル・ハバート選手は現行のルールを守って出場を決めたわけで、その個人に対して卑怯とかずるいという目を向けるのは筋違いであり、あってはいけないことだと考えます。

――男子として生まれ、他の女子選手と比べると骨格の違いや筋力差が生じることも考えらえれるのでは

杉山 体が小さい男性もいれば大きな女性もいますよね。平均すれば男性のほうがフィジカルは強いかもしれませんが、絶対的というわけではありません。身体的特徴だけではなく、裕福な国と貧困国でも状況は違う。何をもって「公平」「不公平」と言うのかは、もう少し多角的に見る必要があるのではないでしょうか。

――五輪はどのような大会になることを望むか

杉山 まずは安全に終えること、そういう意味では無理しすぎずに安全に大会運営することが何より大事。そして、終わった後に「いろいろあったけど、やってよかったね」となるように今何ができるのか、これから何ができるのか考えて実行に移していく。それができれば開催した意味が出てくるんじゃないかなと思います。

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