【東京五輪】山口香JOC理事が五輪貴族に喝!「ビジネスホテルに宿泊して庶民の気持ちを知るべき」

IOCの「貴族体質」に鋭く斬り込んだ山口香氏

五輪貴族もバッサリだ。かねて東京五輪の強行開催を疑問視してきた日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事(56)が、本紙の単独インタビューに応じた。歯に衣着せぬ、スポーツ界きっての論客は、昨年の新型コロナウイルス流行初期にいち早く五輪延期を主張。今回は〝ぼったくり男爵〟らがはびこる国際オリンピック委員会(IOC)の「貴族体質」に鋭く斬り込んだ。

――五輪直前の現状をどう見るか

山口氏(以下山口) 切ない気持ちですね。「やる」か「やらないか」の議論もないままにズルズルときてしまいました。連日、報道されている有観客か無観客かの議論や(選手団と外部を接触させない)バブル方式のもろさなど、やる前からすでに疲れてしまった感覚があります。前向きな議論や努力であれば心地良い疲れですが、議論すらなく、なし崩し的な進め方に対する徒労感でしょうか。日本人の自己肯定感が低いというのも納得ですね。最近では「どうせ何を言っても」という自分の無力を感じます。五輪は一つの例に過ぎず、今の日本に対して、そのような感情を抱いている人が多いのではないでしょうか。

――今、できることがあるとすれば

山口 まあ、ここまできた以上、何とか大事に至らず乗り切ってもらいたい。そのためにも関係者は一切の情や未練を捨て、覚悟を持って臨んでもらいたいですね。その覚悟を示すのが開会式だと思います。無観客が濃厚になってきましたが、IOCやVIPは参加するんですよね。こうなれば、ますます「誰のための五輪なのか」となりませんか? 今回はIOCもVIPもなしで、式典とあいさつのみで十分。「大会の成功のために、ここまで切り捨てたので応援してください」というメッセージが伝わる絶好の場になるはずです。

――開会式は入場行進でフィジカルディスタンスを取るために30分延長されるようだ

山口 入場行進もなくていいでしょう。選手たちはバブルの中に閉じ込められ、多くの制限を受け入れて競技に備えているのに、各国選手団が密になるなんてあり得ないと思いませんか。万が一、開会式で感染などしたら泣くに泣けませんよ。主将と旗手のみの入場、もしくはオンライン参加で十分です。全ての人がテレビを通じて見ることを前提に、それでも満足してもらえる開会式にするにはどうしたらいいか。時間が迫る中で、そちらに精力を傾けてほしいです。

――ほかには

山口 選手のころ、納得のいかないトレーニングほど、つらく苦しいものはありませんでした。組織委員会の実務担当者は寝ずに準備に追われているはずです。ポイントはその努力が誰のためかですよ。終わった後にIOCやVIPからお褒めの言葉をもらっても、国民からのねぎらいがなければむなしくないですか。ゴールの先に、誰の笑顔を見たいのかを考えて「今、何をするべきか、どんな判断をするべきか」の判断してほしいですね。

――希望を込めて何かひと言を

山口 それでは、IOCにひと言。五輪貴族、特別な存在という感覚への嫌悪感なのか、国内外でIOCへの批判が強い。それが五輪反対の一因にもつながっている。ただし、多くのことがIOCの要求なのか、日本側の忖度なのかはわかりません。政府、組織委は交渉もせずに勝手に〝言い値〟で取引してきたのではないでしょうか。国民が納得しないまま進めてきたのですから、最後の最後、ここは引かずに交渉すべきです。

――ついでに、8日来日のIOCトーマス・バッハ会長(67)にも何か

山口 先日、バッハ会長は各国の関係者に「世界中の人々の目は私たちに向けられ、行動一つひとつが注意深く見られる」との書簡を送ったそうです。まさに、この言葉をご自身を含めたIOCが肝に銘じてほしいですね。IOCファミリーは5つ星ホテル、VIPルーム、ハイヤー移動などの「おもてなし」が必要なのかを自問するチャンスです。普段は貴族でも、五輪の時だけはビジネスホテルに宿泊して庶民の気持ちを知る。悪くないですよね。日本には温泉付きのビジネスホテルもありますので!

☆=やまぐち・かおり 1964年12月28日生まれ。東京都出身。柔道の全日本体重別選手権では78年から驚異の10連覇を達成。84年11月の世界選手権52キロ級で日本女子初の金メダルに輝き、88年のソウル五輪では銅メダルを獲得。「女三四郎」の異名を取り、日本女子柔道のパイオニアとなった。引退後の2008年に筑波大大学院准教授に就任(18年から教授)、11年からJOC理事を務める。柔道の得意技は小内刈り。人気柔道漫画「YAWARA!」の主人公・猪熊柔のモデルとしても知られる。

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