【プロレス蔵出し写真館】〝超獣〟ブロディの愛され素顔 座禅で無我の境地…住職をリスペクト

座禅を組むブロディ(85年7月、北海道・北見市「高台寺」)

特徴的なヒゲをたくわえ、短パン、Tシャツ姿で座禅を組むのは〝超獣〟、そして〝インテリジェンス・モンスター〟とも称されたブルーザー・ブロディだ。

これは今から36年前の昭和60年(1985年)7月21日、北海道・北見市にある「曹洞宗護国山高台寺」での写真。ブロディにお寺での座禅をお願いすると、意外なことに日本の寺に入るのも座禅を組むのも初体験だという。「私はクリスチャンだが、この座禅もそれに通じるものを感じる。大事なのはメディテーションとコンセントレーションのようだ」と深く目を閉じ瞑想した。佐伯種孝住職がピシっと木で叩いてもブロディは微動だにしない。まさに無我の境地だった。

寺を出る時、ブロディが「住職は英語で何と言うのか?」と聞いてきた。我々が答えに窮していると、佐伯住職が「テンプル・マスターです」と助け船を出してくれた。ブロディは「非常に勉強になった。素晴らしい体験をした」と住職、そして我々とも握手をかわし大喜びだった。

この年、全日本プロレスから新日本プロレスへ移籍したブロディは、「非常に不思議な力を秘めたレスラーだ」とアントニオ猪木を評し、試合前にリング上で練習している猪木を体育館の上から眺めている風景、炉端焼きの店に飾っていた大きなかぼちゃに猪木の顔を描くなど、猪木との対決をあおる様々な撮影依頼に応えてくれた。

さて、7月17日はブロディの33回目の命日だった。

ブロディは88年7月16日、プエルトリコの首都サンファン郊外にあるバイヤモン市のウアン・ラモン・ルブリエル・スタジアムの控室でホセ・ゴンザレスにナイフで腹を刺され、エル・メディコ・セントロ病院に搬送された。しかし、手術の甲斐なく翌17日の午前5時40分、出血多量のため42歳という若さで亡くなった。

多くの目撃者がいたにもかかわらず、ブロディを刺殺した容疑者ゴンザレスは、裁判で「正当防衛」が認められ無罪となった。何ともやるせない判決だった。

ところで、そのゴンザレスが刺殺事件以来、メディアに登場したのは90年8月29日、大仁田厚がプエルトリコ・サンファン市セツルヤにある、WWCの「キャピタル・スポーツ・プロモーション」の事務所を訪問した時のことだった。大仁田がゴンザレス、ミスター・ポーゴ、グラン・メンドーサ、エル・プフェッソらに襲われ、腹部を刺されるというショッキングなニュースが東スポに掲載された。

そして、FMW設立1周年大会が行われた同年11月5日、東京・駒沢オリンピック公園体育館では、セコンドのビクター・キニョネスとともにリングに向かうポーゴが、ゴンザレスの写真がプリントされたTシャツを持ってカメラマンにひけらかした。ゴンザレスを、ゆくゆくはFMWに登場させようとする大仁田のもくろみだったが、マスコミ関係者をはじめ、ファンの反感を買い批判された。ブロディを刺殺したゴンザレスを、誰もが嫌悪していた。

ブロディと仲の良かったポーゴは後年、このTシャツを持参したことを後悔していた。

座禅を組んだ日、ブロディから「富士山にまだ登ったことがない。今度連れて行ってくれないか」とリクエストされたが、諸事情で応えることができなかった。それが、今でも悔やまれてならない(敬称略)。

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