総合学科開設とその後の変遷から見た今回の「普通科改革」

本年1月26日、中央審議会は、「《令和の日本型学校教育》の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」を答申した。

高等学校教育では、①多様な能力、適性、興味、関心等に応じた学び、②学校生活への満足度や学習意欲の低下、③急激な変化の中での高等教育機関、実社会との連続性、④18歳から主権者の一人であること、⑤令和4年度から高等学校学習指導要領の年次進行実施、⑥個別最適、協働的な学びの実現、などの課題が上げられている。

高校教育を取り巻く状況をみると、産業構造や社会システムが非連続的とも言えるほどに急激に変化している。人工知能(AI)、ビッグデータ、Interenet of Things、ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられたSociety5.0時代が到来しつつある。また少子化の進行によって学校としての機能を維持することが困難となっている地域・学校も生じているなど、社会経済の有り様をふまえた高校教育の在り方の検討が必要になってきている。

また高校生の現状の一つとして、学校生活への満足度や学習意欲が中学校段階に比べて低下していることから、高校における教育活動を、高校生を中心にすえることを改めて確認し、その学習意欲を喚起し、可能性及び能力を最大限に伸長するためのものへと転換することが急務であるとされる。

その上で、「約7割の高校生が通う学科を「普通科」として一括りに議論するのではなく、「普通教育を主とする学科」を置く各高等学校がそれぞれ特色化・魅力化に取り組むことを推進する観点から、…各設置者の判断により、当該学科の特色・魅力ある教育内容を表現する名称を学科名とすることを可能とする制度的な措置が求められる」としている。この「普通教育を主とする学科」の弾力化、大綱化は、「普通科改革」という大きな変革である。

学科については、「SDGsの実現やSocietey5.0の到来に伴う諸課題に対応するために、学際的、複合的な学問分野や新たな学問領域に即した最先端の特色・魅力ある学びに重点的に取り組む学科や、「現在及び将来の地域社会が有する課題や魅力に着目した実践的な学びに重点的に取り組む学科」などが考えられている。

新たな学科における教育課程については、必履修教科・科目の学びを基盤に置きつつ、学校設定教科・科目や「総合的な探究の時間」を各年次にわたって体系的に開設することや、現代的な諸課題という生きた事象を取り扱うために、教室内だけではなく実際の現場に赴いてその現状を目の当たりにしたり、国内外の高等教育機関や施設、各種団体と連携することが求められるとしている。

確かに現行制度でも、必履修科目をすべての生徒に履修させたうえで選択科目を自由に開設することはできる。しかし多くの学校では教育目標はかかげられているものの、教育課程と十分に関連付けられていないなど、生徒の個性を発揮し社会の要請等に応えられるような特色作りはできていないという課題がある。

ここで、30年ほど前、おそらく最初の高校教育改革の一環として誕生した総合学科高校開設に関わった者として思い出すことがある。

総合学科は普通科と職業学科(別の資料では専門学科)とを総合する新たな学科として1994年に設置された。今回の普通科改革では、普通科の特色に応じた学科名や(類型の設置、)学校設定教科・科目の設定など、総合学科の特色が多く含まれている。見方を変えると、総合学科の特色を引き継ぎながらSociety5.0という新たな時代に備えた普通科のための新しい企画や措置ともとれる。一方で、このような普通科改革が進展すれば、総合学科はその特色の一層の発揮という観点から大きな課題があることも明らかだ。

大阪では1996年、100年以上の伝統校である普通科今宮高校が総合学科に学科改編し、筆者は学科改編の翌年から1971年度までの5年間、校長を務めた。この間、生徒・保護者、教職員は、いわば未知の領域で、前向きにがむしゃらに取り組んでくれた。報道関係者が「総合学科はベンチャー企業ですね。ベンチャー・ハイスクールという名前にしては」などと冗談半分に言っていたのを思い出す。

総合学科の教育課程は、「産業社会と人間」「情報」「課題研究」の原則履修科目と総合選択科目、自由選択科目で構成される。1年次に行った、教育内容の核となる「産業社会と人間」は生徒達には大変好評だった。どの系列に所属するかや、どのような選択教科・科目を選ぶかを生徒に考えてもらい方向付けをする。また多数の総合選択科目の準備に教職員は大変な努力をした。それこそが総合学科の特色、生命線と考え、普通科高校や職業高校では作れない科目を置くことに力を入れた。私自身も大学(大阪府立大学)と連携し、大学院生による「航空宇宙工学」という講座を設けたり、大学の研究室訪問のルートを開拓したりした。

今回の普通科改革における学校設定教科・科目の重視などは、総合学科で行われてきたことそのものであるように思われる。総合学科の生徒数は高校全体で現在5%強。総合学科の広がりが見られないところから思い切った普通科改革に至っているのではないかと考えることもできよう。

ICTの発達によって、国内の大学だけでなく、いろんな事業所や海外の学校や施設などとも連携をはかれるようになった今、これまでになく多種、多様な選択科目が設定できるはずだ。ただ一方で注意しなければならないこともある。かつて総合学科に対する世間の評価には「パイロットスクール」「自由な学校」などの好意的なものから、「あいまい学科」「おかゆ学科」などといった批判的なものまでいろいろあった。

「普通科と職業科のよいところを総合する」という理念は、一歩間違うと「あいまい学科」になる可能性を今も秘めているのではないか。また大学受験の圧力は弱まったとは言えまだまだ根強く、少子化が進む中、公私を問わず、学校間の生徒獲得競争がますますし烈になる中、生徒・保護者のニーズの把握も欠かせないだろう。今回の普通科改革が総合学科改革の轍を踏まないことを切に願う。

総合学科に話を戻せば、その改革継続には、まず「産業社会と人間」の内容を精選、確立し、魅力ある選択科目を多数用意することがやはり重要だと思う。ICTやAIなどの先端技術を駆使し、輝かしい未来を作り活躍する人材育成を担える総合学科であることが望まれる。

元大阪府立今宮高等学校校長、くらむぽん出版代表取締役

田村 昌平

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