〈なおえつうみまちアート〉作家紹介〈3〉 ライオン像のある館(旧直江津銀行) 100年後の姿 紙で紡ぐ 「100年後・旧直江津銀行の姿」(西村優子さん)

 折る、という文字は、祈る、という字にも似ています。日本古来の伝統文化である「紙を折る」行為をアートにまで高め、静謐(せいひつ)な作品を発表するのは、西村優子さんです。陰影が美しい折りの作品のみならず、建築を学んだ経験から、今回は紙で人間の身の丈を超える大きな立体の新作も展示します。

 本会場は、市民の皆さんによって長年大切に保存されている経緯を伺い、趣のある空間でふさわしい作家による作品展示を考えました。金融機関で発行する証券用の紙を作品に多く用いてきた西村さん。作家自ら調査で直江津を訪れ、丁寧に資料をひもとき、街の方のお話を伺う中でこの作品は生まれました。約130年前に旧直江津銀行として誕生し、海運業の回漕店としても経済の拠点であった館。長年往来していた紙幣は、現代では電子マネー化により存在が消えつつあります。紙幣の役目を終えた紙が、銀行の中に残り続けていたとしたら? そんな物語が旧直江津銀行の100年後の姿を紙で想像した空間で紡ぎ出されます。

紙を折ってさまざまな形と可能性を追求している

 海と陸の要所として繁栄してきた直江津の象徴的な建物の歴史と、目には見えない「経済」の流れを未来志向で可視化した作品です。紙の造形で、積層する直江津の文化から未来の風景までを表現します。(文・キュレーター、鈴木潤子さん)

 西村優子さんは1978年生まれ。日本大芸術学部デザイン学科建築デザインコース卒業、筑波大大学院修士課程芸術研究科デザイン専攻構成分野修了後、紙の造形作家として活動。日本古来の「折りのかたち」を継承していくに当たり、「折り紙」の分野だけにとどまらず、折りの可能性を追求したいと考えている。古来より受け継いできた日本人の心のかたちを、文化と造形の接点として現代の造形にしていく試みを行っている。折形デザイン研究所のメンバーでもある。

西村優子さん

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