読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、24歳、会社員の女性。子どもを希望していますが、夫の収入だけだと支出に不足するため、育休・産休で貯蓄のペースが減ることを心配しています。出産後の家計はどうなるでしょうか? FPの鈴木さや子氏がお答えします。
結婚し、車や住宅も購入して落ち着いてきたので子どもが欲しいと考えていますが、今の状況で子どもを授かることは可能でしょうか?
夫の給料だけだと月の支出に少し足りず、自分が仕事を休むことが不安です。育休・産休手当は存じておりますが、貯蓄スピードが落ちることが不安です。
出産後は正社員で復職するつもりですが、近くに親が住んでいるわけではないので、子育てと両立できるか不安です。専業主婦になるつもりはないので正社員を辞めたとしても、パート等で働くつもりですが、パートになったとしてもやっていけるかご教示いただきたいです。
また、現在貯蓄は頑張っているほうだと思いますが、投資に踏み切れず資産価値の下落への備えが出来ていません。保険は夫の個人年金保険と車保険のみで、病気の備え等は無保険の状態です。健康保険や雇用保険といった社会保険で十分と考えておりますが、加入した方が良いでしょうか。今後どのようにするのが良いか教えてください。
【相談者プロフィール】
・女性、24歳、会社員、既婚
・同居家族について:
妻/会社員(事務)手取り22万円
夫/28歳、会社員(営業)、手取り23万円
・その他の家族:子ども/なし(2人希望)
両親ともに健在。介護の心配はしばらく無し
・住居の形態:持ち家(戸建て・千葉県)
・毎月の世帯の手取り金額:45万円
・年間の世帯の手取りボーナス額:120万円
・毎月の世帯の支出の目安:25万円
【毎月の支出の内訳】
・住居費:9万5,000円
・食費:3万5,000円
・水道光熱費:1万5,000円
・教育費:1万円
・保険料:1万8,000円(夫個人年金保険)(妻無保険)
・通信費:1万2,000円
・車両費:1万5,000円
・お小遣い:4万円
・その他:1万円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:20万円
・ボーナスからの年間貯蓄額:80万円
・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,400万円(夫婦総額。奨学金返済後)
・現在の投資総額:0円
・現在の負債総額:3,565万円
(夫名義、借入れ額3,580万円、金利0.575% 返済期間35年、残債3,565万円)
・夫奨学金:145万円(残債95万円、利率0.1%→ 繰上返済にて5月に完済)
・老後資金:夫婦2人退職金あり・額不明(企業DC+マッチング拠出)
夫個人年金65歳受取時1,000万円(1万8,000円積立保険)
・車:一括購入300万円
鈴木:マイホーム、車とも購入された20代ご夫婦としては、貯金額がとても多く、ご相談者の貯蓄力の高さと頑張りが伝わってきます。お子様を希望されているものの、産休・育休中の減収と子育てと仕事との両立に、ご不安を感じていらっしゃるのですね。少しでも安心してご希望を叶えられるよう、アドバイスさせていただきます。
欲しい今、ぜひ出産を検討して
まず結論から申し上げますと、経済的に、出産を検討して全く問題ないでしょう。その理由を3つの観点からお伝えいたします。
1.妊娠や出産にかかるお金はそんなに高くない
妊娠や出産は保険適用外のため、高いお金がかかると思われがちですが、自治体や健康保険の助成があるため、高額な産院を選ばなければ、自己負担の総額は10万円前後で済むものです。
妊娠中の合計14回の健診では、自治体から補助があり、健診1回あたり1,000~3,000円程度の自己負担で済むのが一般的。補助対象とならない検査などには1回1万円以上かかることもありますが、大きな心配は不要です。また、出産も全国平均の金額は約46万円。健康保険から支給される出産育児一時金は、1児あたり42万円のため、自己負担は約4万円となります。
妊娠中に切迫早産などの長期入院になり高額の医療費がかかった場合も、高額療養費制度があるため、どんなにかかっても月8~9万円。現在の貯金で十分賄えると思います。
現在、毎月の貯金額が20万円とのことですので、育休に入るまでは十分に手取りから捻出することが可能でしょう。育休に入っても、貯金が潤沢にありますので問題ありません。
2.産休育休中に減収しても、赤字にはならない
ご相談者様も書かれていますように、産休や育休中には手当があります。産休中は、健康保険より出産手当金として、出産前後98日間を対象に給料の約3分の2の金額の給付を受けられます。また、育休中は、雇用保険より育児休業給付として、原則、子どもが1歳となった日の前日まで、給料の約50~67%の給付を受けられます。
たしかに、収入は減るため貯蓄スピードは落ちるのは避けられないでしょう。しかし貯蓄というのは「お金が必要な時に使うため」にしているわけです。妊娠、そして出産という人生の大イベントを迎えるとき、貯蓄を使って当たり前。貯蓄ができなくたって全く心配無用ですよ。
そもそも、現在の毎月の支出金額は25万円ですので、旦那様の手取りと出産手当や育休手当を足せば、金額的には赤字にもなりません。ただし、出産手当金は出産後にまとめて受取るため、収入が入らない時期が数カ月ありますので、ここは貯蓄を利用して乗り切りましょう。
3.もしパート勤務となっても貯蓄が可能
子育てと仕事の両立、不安ですよね。ぜひそのご不安の気持ちと、これからも正社員で働き続けたいという思いを、今から旦那様にお話ししてください。子育ても家事も夫婦でするものです。できるだけ正社員のまま働けるよう、旦那様と共に工夫することが大切です。
来年秋ごろからは、パパが現行の育児休業に加えて、出産直後に育児休業を2回まで取れる制度がスタートします。また、会社にも、育児休業の申し出や取得を円滑にするための環境整備が義務づけられるため、ぜひ旦那様も積極的な育休取得を検討されると良いでしょう。
とはいえ、実際に子育てが始まると、生活や仕事の環境も大きく変わるため、ママの体調や気持ちも変化があるかも知れません。もしパート勤務に変更した場合のお金の状況を、整理してみましょう。
ご相談者様の手取り年収を103万円とした場合、手取り月収は約8万6,000円となります。旦那様の手取り月収が23万円(+配偶者控除分)ですので、世帯手取り月収は約31万6,000円。現在の毎月の支出は25万円ですので、子どもが生まれて少し支出が増えたとしても、毎月4~5万円は貯蓄できそうです。旦那様は、会社の確定拠出年金にマッチング拠出もしていることと、個人年金保険にも加入していますので、老後への備えは子どもが独立してからで問題なく、この4~5万円は子どもの教育資金として積み立てしていくのが良いでしょう。
もし貯蓄ができなくなったら?
それでは、子どもが生まれたことで支出が増え、どうしても貯蓄ができなくなった場合はどのように考えれば良いでしょうか。
ご相談者様はすでに貯蓄があり、一時的に貯蓄ができない時期があっても全く問題ありません。子どもが成長し、また正社員として働けるようになったらぜひ就職を検討してみてください。例えば、もし3歳違いで2人子どもを出産されたとしても、下の子が小学校入学する頃、まだ30歳代です。その後、60歳までフルタイムで働くことができれば、老後資金への備えは万全ですね。
ただし、一時的に貯蓄ができない時期も、現在ある貯蓄には、できるだけ手をつけずに済むような進路選びや習い事選びを心がけることが大切です。子どもが生まれてから15歳まで受け取れる児童手当の貯蓄はもちろんのこと、パート勤務が始まってからの月数万円の積立貯蓄で、お子様の大学進学費用を作りましょう。
子どもが生まれたらママとパパの死亡保険に加入を
現在、旦那様の個人年金保険と自動車保険、また住宅ローンを組まれていますので、おそらく団体信用生命保険にも加入されているかと思います。貯蓄があるため、病気やケガでかかる医療費に備える医療保険への加入の必要性は高くないでしょう。それよりも、子どもが生まれたあとは、ご相談者様と旦那様の死亡保障をプラスすることをおすすめします。
個人年金保険では、万が一旦那様が死亡した場合、それまでの払込保険料相当額が返ってくるだけです。また団体信用生命保険は、以後の旦那様のローン返済がなくなるだけですので、遺族の最低限の生活費分備えておくと安心ですね。
また、旦那様と同様に家計を支えているご相談者様も死亡保障は必要です。夫が亡くなった場合、妻が何歳でも受け取れる遺族厚生年金と異なり、妻が亡くなった場合に夫は55歳以上でないともらうことができません(遺族基礎年金は夫婦とも18歳までの子どもがいればもらえます)。むしろご相談者様の死亡保障の方を手厚く準備した方が良いと言えるのです。
死亡保障は、年金形式で毎月保険金を受け取る「収入保障保険」を子どもが独立するまでの期間で検討すると、保険料を低く抑えられます。また、共済などであれば、低コストで死亡保障に加えて医療保障にも備えられますね。
資産運用はまずは確定拠出年金で始めよう
投資に踏み切れず資産価値の下落への備えが出来ていないとあり、投資されていないことが少し心に引っかかっていると思われます。現在の状況を拝見すると、お勤め先で確定拠出年金に加入されていて、マッチング拠出もされています。もし全額元本確保型の商品で運用されているのであれば、まずは非課税で運用できる確定拠出年金を活用し、運用商品の一部に、投資信託を組み込むことをおすすめします。
もし確定拠出年金で投資信託を買っているのであれば、すでに投資に踏み切られています。運営管理機関から残高状況を示す書類が毎年届きますので、届くタイミングで運用状況をぜひチェックしてみてください。そのうえで、もう少し投資資金を増やしたいと思った場合は、つみたてNISAなど非課税制度を使って、少額で積立するのが良いでしょう。