接種済みでも感染?デルタ株拡大でワクチン万能論に疑問…専門家は「治療薬に注力を」

ワクチンの有効性は?(ロイター)

東京都は28日、新たに報告された新型コロナウイルスの感染者数を3177人と発表した。6人の死亡も判明した。メダルラッシュに沸く東京五輪に冷や水を浴びせかける数字だ。ゲームチェンジャーとして期待されたワクチンだったが、専門家は「東京都の数字をみるとワクチンを接種した人も感染しているのではないか」と指摘。治療薬にも力を入れるべきだと訴えた。

ついに初の3000人超えとなった東京都の新規感染者数。今月12日からの緊急事態宣言期間が2週間を経過した後もワクチン未接種の世代を中心になお拡大が続いてピークが見えない状況が続く。背景にはデルタ株の拡大がある。国立感染症研究所は28日、首都圏では既に感染者の70%を占めるとの推計を発表した。五輪が開会したことの影響はまだこれからとなる。

東京だけではない。埼玉県で870人、千葉県で577人、神奈川県で1051人と、1日の発表者数としてそれぞれ過去最多となった。結果、全国で9583人と過去最多を更新。政府は埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県に対して新型コロナウイルス緊急事態宣言を発令する検討に入った。早ければ30日の政府対策本部で決定する見通しだ。

医学博士で防災・危機管理アドバイザーの古本尚樹氏は「東京都の数字には感染者のワクチン接種率が公開されていません。あくまで仮説ですが、ワクチンを接種している人も罹患しているのではないか。全員が未接種とは考えづらい」とみている。

ワクチン接種は国を挙げて力を入れているところだ。古本氏は「この日は埼玉、千葉、神奈川なども過去最多の数字でした。人流のことばかり言われるが、デルタ株にはワクチンが有効ではないということもあるのではないか」とワクチン万能論に首をかしげている。

本来なら東京五輪の開催がいいのかどうかという話になるが、もう止まらない。

「五輪が開催されて、海外から選手や関係者が来日し、都内を動いています。来週の前半には4000人もあるでしょう。8月中には東京都だけで5000人超えもあり得るのではないか。引きずられて首都圏でも増えかねない」と古本氏は感染爆発の可能性を訴えた。

感染者が減らないどころか、増えることは避けられそうにない。

そこで小池百合子都知事は28日、「まず若い方にもワクチンを打ってほしい。若い方の行動パターンが鍵を握っている」と述べた。さらに感染者向けに自宅療養、宿泊療養、病院のそれぞれで対応を進めているとして「必要な人員や施設、病床はさらに拡大する」とした。

それでも古本氏は「感染者の数が増えるのはもう止められません。大事なのは重症者の受け入れ先を確保することです。また、ワクチン接種を進めると同時に治療薬の承認にも力を入れるべきです。ワクチンは重症化を防ぎますが、治療そのものも大事。この両軸が必要なのです」と指摘する。

コロナの治療薬については、塩野義製薬が臨床試験を開始したと発表している。この治療薬はウイルスの増殖を抑制し、重症化を防ぐ効果が期待できる。

人流の抑制が叫ばれているが、五輪が開催されている以上はそこはもう期待できない。古本氏は「日本の危機管理体制が揺さぶられている」と危機感を抱いている。

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