なぜプロ野球の助っ人たちは号泣し自主退団するのか「家族入国問題」に危機感募らせる球界

家族からのビデオメッセージに涙を流すニール

外国人選手を取り巻く環境を巡って、球界内の危機感が募っている。

「美談や同情だけで終わらせないでほしい」

あるパ・リーグ球団幹部が切実に訴えたのは、6月20日「父の日」のことだった。

西武が自軍の外国人選手のために作成したサプライズ動画が試合前の本拠地メットライフドームに流れた。コロナ禍で離ればなれに暮らす家族からの激励メッセージに、助っ人たちは人目をはばからず大号泣。その姿が世間で大きな反響を呼んだ。

家族の入国が厳しく制限され、異国で単身プレーする助っ人たちの苦しい現実。この問題をもっと掘り下げて考えてほしい――。切実な訴えの真意はそこにあった。

5月にオリックスの9年目右腕・ディクソンが来日することなく退団を選択。交流戦終了後の6月には、巨人加入1年目のスモークが電撃退団した。そして、今月26日には西武で8年目を迎えていたメヒアの退団が決まった。

いずれも家族と離れて単身でプレーしてきた外国人選手たちが、自らの意思で決断したことだった。政府の新型コロナウイルス「水際対策」強化で新規のビザ発給が停止中。家族の入国問題については困難な状況が続いてきた。

すでに6月の時点でメヒア以外にも、前半戦を区切りに帰国を真剣に検討している外国人選手がいた。それは当該球団においては現在進行形の懸案でもある。

生死に関わるウイルスとの闘い。球界内には、水際対策に異論を挟む余地はないという基本的な考えがある。ただ「1親等、2親等以内であれば認めてもらうことはできないだろうか。年明けに入国制限が厳しくなったこともあり、現在日本で家族連れの外国人選手はほんの数人だけ。日々のパフォーマンスに影響するほど精神的にこたえている選手もいる。ファミリーとの時間をとりわけ大切にする外国人選手が多いだけに、異国で単身生活を強いられることは想像以上に負担が大きい」と、助っ人たちを思いやる声は多い。

ある球団の渉外担当者は「家族が入国する際は、選手同様にホテルのフロアを貸切り、毎日PCR検査を実施する準備がある」と厳重な待機措置を用意できるとも強調していた。

ワクチン接種は進んでいるが、今後も世界は変異株の脅威にさらされ、コロナとの闘いは続く。水際対策にワールドスタンダードはないだけに、外国人選手を取り巻く厳しい現実がいつまで続くかは分からない。

「今後もスモークやメヒアと同じ選択をする選手が出てくることも考えられる。さらにはNPBに魅力を感じている彼らの同胞たちが実情を知り、今後どう考えるか。選手獲得においても難しい時代を迎えている」(あるパ球団フロント)

昨年12月に契約合意していた楽天・コンリー(現レイズ傘下マイナー)は、家族の入国問題を理由に5月に契約解除。戦力編成上も計算が立たなくなり、現場も大きな見直しを迫られることになる。

日本野球と文化に敬意を表し、日本でプレーすることを望んでやってきた男たちが志半ばでシーズン途中の退団を余儀なくされている。

「どうすることもできない状況の中で、仲間が去っていくのをただ見送ることしかできないことがまた歯がゆい」(球界関係者)

我慢を強いられているのは球界だけでないが、当事者たちの辛抱も限界にきている。

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