連載⑤ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX教育(デジタルトランスフォーメーション教育)の時代へ(前編)」

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前回:連載④ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX時代における銀行とIT教育(後編)──小学校におけるファイナンシャル教育」

新型コロナウイルスへの対応について、多くの批判をインターネット上でみるようになった。例えば、補助金の手続きを封書で送るよりも、インターネットのサイトで実行したほうが遅かった、という指摘や、ワクチン接種券などが紙ベースで行われる役所の仕事について「マイナンバーの活用ができないのか」という声。

テレワークについても、「印鑑を押すために電車に乗って会社に行く」ということが未だに多かった。コロナ禍は、「はんこレス」とも言われている、脱はんこが進むきっかけとなったきっかけである。

ワクチン接種については、新潟は大規模会場などを早くに設置したため、全国的には遅れた方ではないが、何十万人もの接種券の封筒詰めはさぞかし大変だろう。「竹槍とB29」という比較で揶揄されたように、日本の社会全体のICT化の遅れを尻目に、海外でのワクチン接種に関するデジタル化は進んでいる。

欧州では各国共通の新型コロナウイルスのワクチン接種券が、ワクチンを打ったその場でスマートフォンに発行されるシステムとなった。このシステムでは印刷したい場合は各自のパソコンで印刷可能でもある。

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外資系の会社のほとんどは、エッセンシャルワーカーを除き、テレワークで仕事可能な体制になってきている。そこには、日本との給与に対する考え方の違いがある。就職情報サイトなどをみると、応募者は月給や時給などを見て応募するケースが多い。細かい規定はそれぞれあったり、ノルマがあったりはするとはいえ、1日中会社にいるということが給料に繋がっていくか、能力給か、という考え方の違いだ。

もちろん、これまでの終身雇用と右肩上がりの給料体系は少しずつ崩れつつあるものの、このような給与体系は日本の労働生産性にも影響を及ぼしている要因のひとつだろう。先日イギリスで開催されたG7の中では、日本の1人当たりの労働生産性は最下位。OECD加盟国の36カ国中21位だった2019年にも大きなニュースとなったが、この新型コロナウィルスでその後、ICT化の対応がなされていなかった会社も少なくなかったのだ。

そもそも定年や一斉就職、入社式など日本独自のシステムが良い方向だった時代もあったが、今はそれが少子高齢化で足かせになってきている。能力のある社員でも定年となると簡単に会社から切り捨てられる制度は、高齢化社会ではもったいない。また人手不足も深刻化する中、新入社員を一斉採用というシステムだけでは立ち行かなくなってきている。

ではどうすればよいか。もちろん少子化対策は必須のことであるが、それ以外にはやはりデジタルトランスフォーメーション(DX)化が求められるだろう。人手やコストの削減になるからである。レジの無人化が進んでいくように、色々な面でITの力無くしては立ち行かなくなるであろう。しかしこれからどうやって変化させていけばよいのか、部分的にICT化しても抜本的な改革をしなければなかなか厳しい状況になってきているのではないだろうか。

接種の様子

ところで、現役世代への接種進展時期の試算で、最速は佐賀県などがあがっている。佐賀県は教育ICT化が進んでいる県である。接種の進展の差は、地域経済や観光の産業の景気を左右するので喫緊の対応が求められる。ワクチンの接種券が届く期日が自治体毎で違うことが多くの話題になった。もちろん対応する医療機関の関連もあろうが、一事が万事で、教育のICT化が進んでいることに関連性があったのだろうか。

これからどんどん企業がDX化していかないと、経営にも支障をきたす可能性があるということで、ようやく日本の会社の経営にDX化が求められてきている。海外ではDX化は元々されているので、「DX化」という言葉も使い古されているという指摘もあるのだが、「まずは教育から」という声が大きい。

日本の文部科学省でもついに、「教育DX推進室」というものが開設された。これは文部科学省の大臣官房の文部科学戦略官の総合教育政策局の中にある。

教育のDX化の第一段階はデジタイゼーション(Digitization)、第二段階ではデジタライゼーション(Digitalization)、第三段階はデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)とされている。

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第一段階ではまずはアナログなもの、紙をデジタル化してより効率・効果的にするという点である。筆者はオンライン教育についての著書『小学校にオンライン教育がやってきた!』(三省堂 2021年1月31日 「三省堂webサイト同書ページ」)という本を出版した。そのきっかけはいろいろあったが、そのひとつとなったのがある学校での出来事だ。新型コロナウイルスで一斉休校になった際、先生が1軒1軒生徒の家へ宿題の印刷された紙のプリントを配ったと聞いたことであった。

紙で印刷しなければ児童生徒に届かなかったのだろうか? そもそも、このやり方ではウイルスを家庭に運びかねない。逆に先生にも感染の危険もある。デジタル化してメールやクラウドにあげることは、大学などでは当たり前に行われていることが、なぜ小中高ではできなかったのか。

海外では小学校低学年で授業中にメールのやりとりを習うという事例をみることが少なくない。そういった国では、急に休校になっても宿題配布で先生が1軒1軒家庭訪問をするということは無かった。紙の場合、汚したり無くしたりするケースも後をたたない中、紙にこだわる家庭にだけに配布すればよかったのではないだろうか。

第二段階はデジタライゼーションである。これはデジタル技術やデータ活用による、指導や教育行政の改善と最適化のことである。第三段階のDXは、学習モデルの構造が質的に変革している中で、新たな価値を創出することである。教育は国家百年の計と言われるように、生産性をぐんとアップさせるための色々な価値観の改革が求められる。そのことが教育においてのグローバルスタンダードである。

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海外ではテストが紙と鉛筆でなくCBT(Computer Based Testing)と口頭試問だけというところも増えてきている。CBTであれば教師の採点を経ることもなく、クラスや学年、学校などの順位も一瞬で出る。先生が楽をするという声が聞こえてきそうだが、そうではなく、このCBTは各教科の順位やこれまでのデータと数か月後のシミュレーションまでもが可能なのである。

もちろん教育にこういった簡単な方法を取り入れることに異論があることは理解しているが、少なくても海外ではそういった動きになっている。『安いニッポン 「価格」が示す停滞 』(中藤玲 日経プレミアシリーズ 2021年3月9日)という本が評判となっているが、実際世界中では日本の労働賃金の低さ、マクドナルドのハンバーガーの安さに驚かれることがある。デジタル化はそういったことも明らかにする。ワクチン接種券の届いた状況や、ワクチン接種率などもインターネットを調べることで、どの自治体が早いか遅いかが明らかになってきている。一事が万事と、そういった体制の早い自治体を若い人が選ぶ時代に変化するという流れが出てこないように、教育のDX化は進めていくことが必要なのである。

次回はその具体例、「StuDX Style」について話をする。

上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学サービス創新研究所客員研究員
東洋大学非常勤講師
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託事業欧州調査主査(H29)

大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。研究では最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても国内外の調査研究。国内外での招待講演多数。著書に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』、『小学校にオンライン教育がやってきた!』(三省堂)など。

新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了

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