侍ジャパン、快勝の鍵は「低め打ち」 元WBCスコアラーが読み解く攻略ポイント

7回にソロを放った侍ジャパン・坂本勇人【写真:AP】

世界一となった2009年WBCで日本代表チーフスコアラーを務めた三井康浩氏が解説

■日本 7ー4 メキシコ(31日・グループリーグ・横浜)

東京五輪の野球日本代表「侍ジャパン」は31日、横浜スタジアムで行われたメキシコ戦に7-4で勝利し、2連勝でグループリーグA組を1位で通過した。8月2日の決勝トーナメント初戦ではB組1位の米国と対戦する。2009年WBCで日本代表チーフスコアラーを務め、世界一に貢献した野球評論家・三井康浩氏が、侍ジャパンのメキシコ戦の勝因と決勝トーナメントを勝ち抜く鍵を探った。

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侍ジャパンが序盤から得点を重ねることができた要因の1つは「低め打ち」にあったと思います。

私は試合前から、メキシコの投手の高めのボールには力負けしてしまう可能性が高いので、ストレートを狙うならベルト付近から低めに絞った方がいいと見ていました。特に、この日先発した左腕オラマスは、頭が先に突っ込み、腕が遅れて来る変則的なフォーム。侍ジャパンの打者からは、ストレートも一瞬「変化球」に見え、結果的に130キロ台の球にも差し込まれていました。

1回の攻撃で高めのストレートに手を出した場合は、だいたい空振りかファウル。1死二塁のチャンスは作りましたが、吉田正尚外野手(オリックス)は真ん中高めの速球を打って中飛。続く鈴木誠也外野手(広島)も、高めの速球をとらえ切れず右飛に倒れました。高めのストレートに手を出しているうちは苦労しそうだ、と嫌な予感がよぎりました。

1点ビハインドで迎えた2回、先頭の浅村栄斗内野手(楽天)は真ん中高めの速球に詰まらされながら、右前へ運びヒットにしましたが、これは彼特有のパワーがあればこそ。1死後、菊池涼介内野手(広島)がインローのカーブをとらえて左前打を放って一、三塁とし、9番の甲斐拓也捕手(ソフトバンク)も真ん中低めのストレートを打って同点打となりました。

早すぎるように見えて絶妙だった先発・森下の交代

3回先頭の坂本勇人内野手(巨人)が放った左翼線二塁打も、インローのストレートを打ったものでした。この回、敵失も絡んで勝ち越し。オラマスに対しては、低めを打った打者が成功しました。

侍ジャパンは結果的に、4回から登板した相手2番手アレドンドに助けられた格好になりました。長身の割にストレートにも角度がありませんでした。村上、甲斐の連打の後、山田哲人内野手(ヤクルト)が左翼席へ3ランを放ち試合の流れを引き寄せました。侍ジャパンの各打者の力量をもってすれば、比較的打ちやすい投手だったと思います。

守備では、先発の森下暢仁投手(広島)を5回68球で代えたタイミングが絶妙でした。踏ん切りがよかった。そこまで5安打2失点で一見、交代が早過ぎるようにも思えますが、5回くらいから勝負球が甘くなり、甲斐が緩急をつけたリードでなんとか凌いでいました。転ばぬ先の杖で、流れが相手に行くのを未然に防ぎました。

金メダルには太鼓判「普通のことを普通にこなせば、十分勝ち取れる」

ところで、今大会で使用されているSSK製のボールは、MLB使用球よりはミズノ製のNPB統一球に近い形状です。メキシコ代表の大半の選手を含め、米国でのプレー経験が長い打者は、縫い目が高く変化球の曲がりが大きいといわれるMLB使用球を見慣れていて、今大会に関しては、スライダーなど横の変化には簡単に対応していると感じます。

この試合でも、国内で無双している平良海馬投手(西武)が、メネセスに左翼席への2ランを浴びたのもスライダーでした。フォーク、チェンジアップもしくはカーブなど、縦の変化の方が有効だと思います。決勝トーナメントへ向けて教訓になるのではないでしょうか。

全体的には序盤に逆転し、中押し、ダメ押しと完璧に近い試合運びでした。決勝トーナメントで初めて対戦する国を見ても、宿敵の韓国は決勝で日本と球史に残る接戦を演じた2009年WBCをピークにパワーダウンしていますし、米国も現役メジャーリーガーが参加しているわけではない。侍ジャパンには、普通のことを普通にこなせば、金メダルを十分勝ち取れる力があると思います。独特の緊張感との戦いが続きますが、心から成功を祈ります。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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