何を語る

 〈この夏はワクチン接種を済ませた地方のおじいちゃん、おばあちゃんの所へ都会の子や孫が…〉-変異株の猛威は、そんな青写真や皮算用を吹き飛ばしてしまった。「県境を越える往来」は自粛の呼び掛けが続き、2年続けて帰省はお預けの夏▲そんな中でも要人や閣僚の往来は自粛の枠外だ。「なぜ」と問いたい人もいるかもしれない。きょう6日の広島と9日の長崎の原爆の日、菅義偉首相は県境を越えて東京からやって来る▲特別扱いに一言言いたい気もする。だが、逆に、もしも首相が新型コロナ感染の拡大を理由に式典への参列を取りやめる-とでも言い出したら、私たちは猛反発するだろう。「ヒロシマとナガサキは不要不急なのか」と▲平気な顔で来県されれば少しだけ首をかしげ、しかし「来ない」ことには大いに異議がある…それでは永遠の“後出しジャンケン”だ。きちんと自戒しておきたい▲ただ、そんな環境下でわざわざ首相は来るのだ。被爆地で何を語るか-いつも以上に厳しい視線が注がれていることは指摘しておきたい。黒い雨訴訟の上告断念で語った被爆者援護への思いは額面通りに受け取っていいか、核兵器廃絶への決意はどうか▲念を押しておきたい。「そんな発言のために来たのか」と被爆地を失望させないでほしい、と。(智)

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