感謝の思い

 急に態度を変え、従来とは正反対の対応をすることを意味する「手のひら返し」。先月23日の東京五輪開幕前から、この言葉がSNSなどで話題になった▲「五輪の選挙利用」などと開催に反対していたテレビコメンテーターらの態度が、開幕と同時に「感動した」へ変わったことへの反応である。予想通りとはいえ、確かにその変わり身の早さには驚いた▲でも、と考えてみる。そのどこが悪いのかと。人は周囲の意見を聞き、現場を見て、自らの考えを構築する。一貫性がないとも言われそうだが、それぞれの、その時々の考え方を否定する権利は誰にもない▲そんな不安定な世論の中でも、選手たちのプレー、コメントはすがすがしかった。浮かれず、開催への「感謝」を強調する選手が多かった▲中でも体操会場の一こまは印象的だった。競技終了後、日本チームは「運営スタッフの皆様ありがとう」と書いた横断幕を掲げた。涙が止まらなかったスタッフもいたという▲きょう8日、緊急事態宣言下で開かれた歴史的五輪が閉幕する。予想される手のひら返し返しはどうあれ、医療現場への影響や感染爆発との因果関係などは徹底検証されるべきだろう。でも、今はただ、全力を尽くした選手やスタッフのみなさんをねぎらいたい。「たくさんの感動をありがとう」と。(城)

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