後継者難の倒産原因、代表者の「死亡」が52.4%に(2021年1-7月)

 2021年(1-7月)の『後継者難』の倒産は、累計208件(前年同期比5.8%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。ただ、全倒産に占める構成比は5.9%で、前年同期の4.6%を1.3ポイント上回った。
 これは調査を開始した2013年以降では最高を記録し、中小企業の後継者難の深刻さを示している。
 産業別では、最多がサービス業他の44件(前年同期比7.3%増)。次いで、建設業42件(同16.0%減)、製造業37件(同2.7%増)と続く。
 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)は112件(構成比53.8%)で、1-7月累計では4年連続で5割を超えた。
 負債額別では、1億円未満が142件(同68.2%)と約7割に達した。ただ、1億円以上5億円未満(49→57件)、5億円以上10億円未満(5→7件)が増加しており、事業承継問題は規模に関係なく顕在化している。
 『後継者難』倒産の208件では、「死亡」が109件(構成比52.4%)と半数を上回り、1-7月累計では2014年同期以来、7年ぶりに100件を超えた。また、「体調不良」が61件(同29.3%)で、この2要因で『後継者難』倒産の8割(構成比81.7%)にのぼる。中小企業ほど、代表者が資金面を含めて経営全般を担い、代表者の不測の事態に直面すると事業継続に支障を来している。
 コロナ禍の終息が見えないなか、業績回復が遅れた企業は、後継者育成が後回しになっており、今後は『後継者難』倒産が一段と増えることが懸念される。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年(1-7月)の「後継者難」倒産を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産208件、倒産全体の5.9%に上昇

 2021年(1-7月)の『後継者難』倒産は208件(前年同期比5.8%減、前年同期221件)で、2年ぶりに前年同期を下回った。全体の倒産(1-7月累計3,520件)はコロナ禍の資金繰り支援に下支えされ低水準で推移しているが、『後継者難』倒産は全体の5.9%(前年同期4.6%)に上昇した。
 金融機関は貸出審査に際し、これまでは財務内容に基づくスコアリングが中心だったが、事業性や成長性など「事業性評価」への取り組みが浸透し、後継者の有無が重要な判断材料の一つになっている。
 多くの中小企業は代表者が経理や営業など経営全般を担っている。このため、経営を優先する経営者ほど後継者育成や事業承継への準備が後回しになりがちだ。代表者の高齢化に伴い事業継続へのリスクは年々、高まっている。
 中小企業の後継者問題は地域経済にも影響を与えるため、個別の企業努力だけでなく外部の協力も不可欠になっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別では、代表者などの「死亡」が109件(前年同期比18.4%増、前年同期92件)で最多だった。調査を開始した2013年以降、1-7月累計は2014年(103件)以来、7年ぶりに100件を超えた。
 『後継者難』倒産に占める構成比は52.4%(前年同期41.6%)で、前年同期より10.8ポイント上昇した。
 また、「体調不良」は61件(前年同期比20.7%減、構成比29.3%)で、2年ぶりに減少した。ただ、1-7月累計では前年同期(77件)に次ぎ、2018年同期と並び調査を開始以来、2番目に多かった。
 「高齢」が20件(前年同期比31.0%減、構成比9.6%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計170件(前年同期比0.5%増、前年同期169件)で、2年連続で前年同期を上回った。『後継者難』倒産に占める構成比は81.7%(前年同期76.4%)と、前年同期より5.3ポイント上昇した。
 代表者の高齢化の進行とともに、中小企業は事業承継や後継者の育成が大きな経営課題に浮上している。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は4産業、2産業が前年同期と同件数だった。
 増加では、サービス業他が44件(前年同期比7.3%増、構成比21.1%)で、1-7月累計は2019年から3年連続で増加した。
 サービス業他では、広告業(ゼロ→4件)や建築設計業(1→4件)などを含む「学術研究,専門・技術サービス業」(2→11件)、美容業や結婚式場業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」(3→6件)、「物品賃貸業」(ゼロ→3件)などで増加した。
 そのほか、製造業37件(前年同期36件)が2年連続、金融・保険業1件(同ゼロ)と不動産15件(同9件)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 一方、減少では、小売業24件(同32件)が3年ぶり、建設業42件(同50件)と卸売業33件(同37件)、情報通信業2件(同6件)が2年ぶりに、それぞれ減少した。
 農・林・漁・鉱業と運輸業が前年同期と同件数だった。

後継者難

【形態別】消滅型倒産の構成比が過去最高の97.1%

 形態別では、最多が「破産」の189件(前年同期比2.0%減、前年同期193件)で、『後継者難』倒産に占める構成比は90.8%(前年同期87.3%)と、前年同期より3.5ポイント上昇した。
 また、「特別清算」が12件(前年同期比140.0%増、前年同期5件)だった。
 「破産」と「特別清算」は合計201件(前年同期比1.5%増)で、構成比は96.6%(前年同期89.5%)に達し、『後継者難』倒産のほとんどは消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件、会社更生法は調査を開始した2013年以降、1-7月累計では発生がない。

【資本金別】1千万円未満が5割以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が112件(前年同期比5.8%減、前年同期119件)。『後継者難』倒産に占める構成比は53.8%(前年同期53.8%)と、5割を超えた。
 一方、1億円以上は1-7月累計では2019年以降、3年連続で発生がない。

【負債額別】1億円未満が約7割

 負債額別では、1億円未満が142件(前年同期比12.3%減、前年同期162件)。『後継者難』倒産に占める構成比は68.2%(前年同期73.3%)で、引き続き小規模倒産が主体となっている。
 ただ、1億円以上5億円未満が57件(前年同期比16.3%増、前年同期49件)、5億円以上10億円未満が7件(同40.0%増、同5件)と、1-7月累計ではそれぞれ2年連続で増加し、中堅企業でも事業承継の問題が出ている。

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