「想像してみて」 原爆を漫才劇に 吉本興業・アップダウン 長崎で初公演

原爆をテーマにした劇を披露する(左から)竹森さんと阿部さん=長崎市岡町、長崎原爆被災者協議会

 吉本興業所属のお笑いコンビ「アップダウン」が11日、被爆した少年の体験や心情を描いた劇を織り交ぜた漫才を、長崎市内で初めて披露した。原爆という重いテーマに笑いを交えることに葛藤を抱えながら、若い世代が考える「入り口」となる表現を模索。戦争体験がないからこそ、舞台では何度も「想像してみて」と呼び掛け、観劇した市民らは笑い、泣きながら76年前の惨劇に思いをはせた。
 アップダウンは北海道出身の阿部浩貴さん(44)と竹森巧さん(43)が1996年に結成し、東京の劇場でコントや漫才を披露。アイヌ民族や特攻隊を扱う“社会派”の芝居を全国公演してきた他、竹森さんは音楽活動もしている。
 11日の公演は、前半の漫才で竹森さんがユーモアを交えて観客の想像を促す歌を披露。広島と長崎の惨状を描いた絵画「原爆の図」を見せずに、2人で解説文だけを読み、「あの日」を客に想像してもらった。
 その後、被爆医師の故永井隆博士の著作を基にした劇では、竹森さんが永井博士、阿部さんが当時11歳で被爆した故深堀悟さん=享年(83)=を演じた。深堀さんが自分のけがに気を取られ、原爆投下翌日まで母や姉ら家族を心配しなかったことを悔やみ続ける「心の傷」を表現。永井博士が倒壊した浦上天主堂から鐘を掘り出し、再び鳴らす様子も演じた。
 昼夜2回公演に、被爆者や親子連れなど計120人以上が来場。深堀さんの妻で被爆者の絹代さん(85)は「夫の話は何度も聞いていたが、2人が演じてくれることで心にぐっとくるものがあった」と話し、目に涙を浮かべた。西彼長与町立長与第二中3年の坂本釉衣さん(15)は「原爆には重いイメージがあるけど笑いも入っていて身近に感じた。自分も原爆を体験した人に話を聞いてみたいと思った」と語った。
 漫才制作を依頼した長崎被災協・被爆二世の会・長崎の山崎和幸会長(68)は今後、小中学校の平和教育に活用してもらう考え。「子どもたちに原爆や戦争の悲惨さを伝える新しい手段になれば」と願う。

© 株式会社長崎新聞社