阪神にとっては“大の天敵” 首位攻防の鍵を握る巨人・高橋優貴が甲子園で強いワケ

巨人・高橋優貴【写真:荒川祐史】

球速や軌道では見分けにくい、手元で逆方向に曲がるスクリューとスライダー

東京五輪による中断期間を終え、プロ野球は13日から後半戦が始まる。前半戦を43勝32敗10分けの2位で終えた巨人。エース菅野智之投手が出場選手登録を4度抹消されるなど先発陣が不安定な中、存在感を示したのが高橋優貴投手だった。15試合登板でリーグトップの9勝(3敗)を挙げ、防御率は同4位の2.51。初選出されたオールスターでは第1戦の先発を務めた3年目左腕は、後半戦も大きな役目を任されそうだ。

リーグ首位を走る阪神と相性がいいのも、巨人ファンにとっては心強いだろう。今季は4度先発して4勝、防御率1.08(25回、自責3)。特に甲子園では3試合、計19イニング無失点だ。なぜ、ここまで虎と“聖地”に強いのか。前半戦最後の登板で7回1安打1四球無失点の快投を演じ、9勝目を挙げた7月11日の15回戦(甲子園)の投球を、現役時代にヤクルトや阪神など4球団で通算21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏に分析してもらった。

この日の高橋は“魔球”と呼ばれるスクリューをはじめ、スライダー、カーブを駆使し、付け入る隙を与えなかった。許した走者は初回2死から四球を与えたマルテと、3回先頭で中前打を許した中野だけ。唯一得点圏に進んだ3回1死二塁でも、近本を外角スライダーで一ゴロ(走者は三進)、糸原をインハイの143キロ速球で二ゴロに仕留めた。

「コントロールは精密というほどではなく逆球も多い」のが幸い?

野口氏は「スクリューとスライダーはいずれも120キロ前後の球速で見分けがつきにくく、途中まで同じ軌道で来て、手元で逆方向に曲がるので打ちにくいと思います」と分析。「前回登板(7月4日)のDeNA戦(4回2/3を2失点で敗戦投手)と比べて、表情にも終始余裕がありました」と見た。圧倒的な相性の良さが自信につながっているようだ。

甲子園で強い理由としては「(高橋は)実はコントロールは精密というほどではなく逆球も多い。広くて一発を食らう確率が減る甲子園では細かい制球を気にせず、より大胆に投げられているのではないか」と背景を読み解く。

また、野口氏は興味深いデータを示す。「あくまでこの日に限った傾向ですが、9番・投手の西勇との対戦を除くと、74球中ストレートは34球(約46%)に過ぎなかった。特にクリーンアップには3度ずつの対戦で、マルテに11球中3球、大山に13球中4球、サンズに8球中2球しかなかった。全体的にもストレートを2球続けることは極めて少なかった」。

にも関わらず、「阪神の打者は全員ストレートのタイミングで打席に立っているように見えた」と指摘。「これだけはっきりした傾向が表れている以上、せめて中盤以降は変化球に狙いを絞ってもよかったのではないか」と言う。阪神が16年ぶりの優勝に漕ぎつけるには、避けて通れない“天敵”。後半戦も甲子園での直接対決が控えている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

© 株式会社Creative2