【高校野球】73歳指揮官が「感無量」 専大松戸に甲子園初勝利を運んだエースの“攻撃的投球”

明豊戦に先発した専大松戸・深沢鳳介【写真:共同通信社】

エース・深沢鳳介は9回136球で選抜準優勝校の明豊を完封

第103回全国高校野球選手権は16日、阪神甲子園球場で第4日を行い、専大松戸(千葉)が6-0で今春の選抜準優勝校の明豊(大分)を下した。専大松戸は春夏通じて甲子園初勝利。2007年からチームを率いる持丸修一監督にとっては、かつて率いた竜ケ崎一(茨城)、藤代(同)に続き、3校目となる甲子園での白星だ。うれしい1勝を運んできたのは、“攻撃的”に徹したエース・深沢鳳介投手(3年)の投球だった。

「感無量ですね。一番うれしかったですね」。73歳の今大会最年長監督は言葉を絞りだした。これまで率いた4校をすべて甲子園に導き、常総学院(茨城)を除いた3校で白星を挙げたことになる。専大松戸では、上沢直之(日本ハム)や高橋礼(ソフトバンク)といったプロ選手も育てた。それでも、ついにつかんだここでの1勝は格別だ。就任15年目でちょっぴり、肩の荷が下りた。

先発したエース・深沢は9回136球を投げ、被安打6本、11奪三振で完封。相手が選抜準優勝校という意識は強く「格上の打者が多いと思っていたので、相手の嫌がることをやろう」と考え抜いた投球の成果だった。右横手投げの投手にとって、鬼門となるのが左打者。対策として磨いてきたのが、140キロに達する直球で内角をひたすら突き、あおることだった。

3回には先頭に右前打を許し、さらに自身のバント処理ミスで無死一、二塁のピンチを背負ったが、ここから3者連続三振でピンチをしのぐ。1死後続いた左打者、1番の阿南心雄外野手(3年)には外角への緩いカーブ、続く黒木日向内野手(3年)には内角の直球を決め球に翻弄した。内角を意識させたからこそできる、自在の攻めだ。

夏までに磨いた内角へと投げ切る投球「春は自分の失投で負けた」

指揮官も深沢の快投には「インコースを上手く使いながら、完璧な投球をしてくれた」と最敬礼。試合途中までは継投が頭にあったが「あれだけいい投球をしてくれたら、変えどきが難しくなりますよね。7回からはもう、深沢に任そうと考えていました」。この春は、2番手以降の投手育成にも心を砕いてきたが、この日の背番号1の姿には、腹をくくらせるだけのものがあった。

今春の選抜、1回戦で中京大中京に0-2の完封負けを喫した。持丸監督は「中京大中京とあんな試合ができたってみんな褒めてくれたけど、違う。負けたんでは一緒だろう」と、すぐ夏を向き動き出した。選手の思いはより強かった。深沢は「春は自分の失投で負けた。夏の県大会の決勝でも、内角の甘い球を本塁打された」。甲子園までの短い間に、内角へ投げ切る力を身につけるべく取り組んだ。

ブルペンで、左打者にベースへ近寄ってもらい、それでも内角へ投げ切る練習をした。コースいっぱいに投げればストライクゾーンを使いきれると思っていたが、持丸監督からの「もう1個バッター寄りに投げたほうがいい」という言葉に気づかされた。打者に当てるくらいの気持ちでなければ、本当に攻めきることはできないのだと。右打者に対しても一緒だ。右打者の顔に向かっていくような獰猛なボールなら、リスクが大きいとされるシュート回転も使えるものになる。「シュート回転しても、いい回転のシュートボールならOKだ」という老将の言葉が、力になった。

初めて甲子園で味わった喜び。「春の負けがあっての勝利かな」と深沢は言った。悔しい記憶さえも、意味のあるものに変えた快投だった。次は2勝目へ。部の歴史を変える夏は、まだまだ続く。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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