上越は今〈5〉二つの文化財施設 歴史的建造物利活用へ 旧今井染物屋と旧師団長官舎 地域文化発信、回遊拠点に

 上越市大町にある二つの市指定文化財の建物が今春、新たなスタートを切った。江戸時代末期に建てられ、上越市内で現存する最古、最大級の町屋建築とされる同市大町5の「旧今井染物屋」、明治時代末期に建てられ、市内に残る数少ない明治期の洋風建築である同市大町2の「旧師団長官舎」。前者は手仕事作家による地域文化の発信と継承、後者はレストランやカフェが入り、新たな回遊観光拠点として注目されている。国の地域再生計画の認定を受け、「城下町高田の歴史と文化をいかした『まちの再生』」事業。文化財の保存から利活用へ、新たな用途を加え、建物に付加価値を与えている。

 旧師団長官舎は1910(明治43)年、旧陸軍第13師団第3代師団長・長岡外史中将(1856~1933年)の邸宅として南城町3に建てられ、1993(平成5)年に市が現在地に移築、復元した。明治期の和洋折衷の貴重な木造建築物だ。

 これまでは文化財として施設の保存や管理、見学が主だったが、多くの人に利活用してもらおうと、市は平成30年に民間事業者から意見、提案を求めるサウンディング型市場調査を実施。令和元年にプロポーザル方式で企画を募り、市内フランス料理店の提案が採用された。改修工事を経て、4月1日から再公開され、先行してカフェがオープン、同20日からレストランが営業を開始した。

落ち着いた雰囲気の中で、本格的なコース料理を堪能できる旧師団長官舎内のレストラン

 旧今井染物屋のある大町5は江戸時代から職人町として栄え、同施設は染物屋を営み、多くの職人たちが住み込みで働いていた。同地は繊維業から発展した有沢製作所(本社・上越市南本町1)の創業の地でもあり、特にバテンレースは高田の一大産業として発展した。

 市は貴重な文化財である建物の保存と、約130年続いてきた雪国高田の風土産業、バテンレースを後世に残していくため、耐震改修工事を実施。バテンレースを中心とした常設工房を設置し、地域文化の継承と発信の拠点として再生し、4月29日にリニューアルオープンした。

夏休み期間中、多くの子どもたちが参加した旧今井染物屋でのワークショップ。バテンレース体験はブレードを使ってストラップなどを作った(8月6、7日)

来館者は順調に推移

 市文化振興課によると、旧師団長官舎は4月1日から7月末までの4カ月間に計7000人以上の来館者があり、このうち見学利用は約5800人に上る。旧今井染物屋は4月29日から7月末までに5200人以上の来館者を数える。夏休みは子ども向けのワークショップがあり、次代を担う子の利用も増えている。それぞれ1カ月平均1700人超と順調に推移しており、同課は「コロナ禍だが、平日を含め、多くの方に来ていただいている」と受け止めている。

 旧師団長官舎内で「レストラン エリス」やカフェを経営するオーナーシェフの米谷太雅さん(44)は建物の価値を示した上で、「上越が立ち寄り地でなく目的地になるよう、外から人を呼び込み、外貨を稼ぎたいという目標だったが、コロナ禍で今年、来年は厳しいと思うので、まずは市民から再評価し、知っていただきたい。こういう雰囲気の中でしっかりとした料理を提供し、ゆったりと気持ちを回復させてくれれば」と話し、今後は展示会や展覧会、結婚式などの利用、異業種とのコラボも考えているという。

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