「何のための推理か」作家・今村昌弘 剣崎比留子シリーズ第3作『兇人邸の殺人』刊行

「2人の主人公の関係性が作品のテーマ」と話す今村=長崎市内

 「屍人荘の殺人」で2017年デビューした長崎県諫早市出身のミステリー作家、今村昌弘(35)=神戸市在住=が7月末、同作に始まる剣崎比留子シリーズの第3作「兇人邸の殺人」を刊行した。映画化された「屍人荘-」以来のホラー的展開を融合したストーリーで、読者を作品世界へ引き込む本格ミステリー。今月、長崎市を訪れた今村は取材に「比留子の推理がいったい何のためなのか、ということに答えを出そうとした」と作品への思いを語った。
 19年刊行の第2作「魔眼の匣(はこ)の殺人」以来、約2年ぶりの新作。大学のミステリ愛好会に所属し、前2作で謎を解き明かしてきた比留子と葉村譲のコンビが、廃虚テーマパーク内の奇怪な屋敷「兇人邸」で残酷な首切り殺人鬼に遭遇。同行者と共に閉じ込められ、犠牲者が相次ぐ中、比留子までが行方不明になる…。
 今村は前2作からの“進化”を「比留子と葉村の2人の主人公の関係性を、はっきりと位置付けようとした」と説明。「正義感から推理したりするのではなく、身の回りに事件が集まってしまう比留子に対し、葉村はどんな立ち位置で事件に関わるのか。比留子というキャラの“探偵性”というか、そういうものが読み終えた時にはっきりするように書いた」と話す。
 「ドラマ性に力が入った作品。一つの作品としてまとめきるのに体力が必要だった」と手応えを表現。シリーズは続くが、本作までの3作を「第1シーズン」と位置付け、「次回から新しい形でやっていけたら」と構想の一端を明かした。
 19年末に「屍人荘-」の映画が公開され、今年はテレビドラマ「ネメシス」で脚本協力にも挑戦。「映画もドラマも、普段ミステリーを手に取らない層に(読む)きっかけになればという思いが強かった。俳優の表情を思い浮かべながら(キャラクターを)動かすのは新鮮だった」と笑顔。
 今後は同シリーズ以外の作品も執筆する予定。「エンターテインメント性に寄ったり活躍する年齢層を下げたりと、いろんなチャレンジをしたい。どういう作品にしろ、自分の強みは論理的な本格ミステリー。謎解きの面白さが詰まった作品にしていきたい」と抱負。
 今回はメトロ書店本店(長崎市)でのサイン会のため来崎したが、新型コロナウイルス感染拡大のため直前で中止に。「皆さんから熱い応援をいただき、長崎でイベントを企画したので、中止は非常に残念。いつかもう一度企画し、皆さんとお会いしたい」と、古里のファンへのメッセージを寄せた。
 「兇人邸の殺人」は東京創元社刊、368ページ。1870円。

「兇人邸の殺人」の表紙

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