【夏の甲子園】157キロ・風間を攻略した名将・馬淵監督「江川世代の誇り」とプロ野球界も評価

高校野球界屈指の戦略家と呼ばれる明徳義塾・馬淵史郎監督

【ズームアップ甲子園】「江川世代の誇り」だ。第103回全国高校野球選手権大会第9日(22日、甲子園)第1試合は明徳義塾(高知)が明桜(秋田)に8―2の完勝。高校野球界屈指の戦略家・馬淵史郎監督(65)の采配がさえわたった。今秋ドラフト上位候補で最速157キロを誇る明桜のエース・風間球打投手(3年)の弱点を突いて攻略。以心伝心で動く選手を鍛え上げる指導力と、つわものを打ち負かす兵法が光った名将は、プロ野球界からもその手腕を高く評価されている。

甲子園通算53勝目は「馬淵野球」が凝縮されていた。洞察力、勝負勘、戦術眼…知将らしく風間を丸裸にして「パワーで劣る」と認める自軍選手に攻略の知恵を授け、聖地で躍動させた。

用意周到だった。「前の試合でけん制球を1球も放ってない。けん制球が苦手なんじゃないかということで機動力を使おうと。クイックも急ぐんで、そうなると余計に制球しにくい」と分析。「ウチは県予選から盗塁ゼロのチーム。ここらへんで盗塁しようかなと思ってやった」。次戦以降に餌をまくことも忘れず、風間を揺さぶった。

明確な狙いを伝えられた選手は追い込まれると自発的にバットを短く持ち、際どい球はファウルでカットした。「速い投手から緩い投手に代わると打ちやすい。とにかく風間君を早い回で降ろす」というプラン通り、6回139球を放らせてリードを奪った状態で降板に追い込んだ。

風間を攻略するだけでなく、豊富な経験に裏打ちされた継投のタイミング、追加点の奪い方も見事だった。5回無死一、二塁のピンチでは初戦で好救援を見せた変則左腕・吉村(2年)を投入。無死満塁となったが「吉村にはツキがある。ツキも大事」という言葉通り無失点にしのいで一気に流れに乗った。7回の攻撃では珍しい「三重盗」が決まるなど3得点。以心伝心で動くナインが隙のない、したたかな野球を展開して完勝した。

その手腕はプロも舌を巻く。「とにかく野球をよく知っている」。元広島監督で2018年までソフトバンクのヘッドコーチを務めた達川光男氏(66)は馬淵監督を「名将」と認める。「まず一番は、勝たせること。子供たちは勝ちたい、甲子園に出たいんじゃから。次に、上のステージに送り出してやること。プロ、大学、社会人へ。野球で教え子の未来を切り開く。この両方をずっと継続していることがすごい」。

同じ1955年生まれで、達川氏が学生野球資格を回復した後に面識もある2人。金属バットの性能向上などで「打高」傾向の中、指導法を腐心する姿を見てきた。高知大会決勝で退けた最速154キロ右腕の高知・森木大智投手(3年)の攻略法は半年前には描かれていたという。戦略だけでなく「選手を乗せる話術、大所帯でも目を行き届かせて個別に声を掛けるタイミングのうまさがある」と指導力の高さを認めている。ゆえに、達川節で「昭和30年生まれの野球人で言えば、選手は江川卓(元巨人)が一番じゃけど、監督はプロも含めて馬淵が一番じゃ。馬淵監督はわれわれ『江川世代』の誇りよ」とたたえる。

プロ野球界からは他にも「大味な試合が増えた中で、どうやったら1点をもぎ取るかという野球を愚直にやる。考える野球ができる馬淵さんはU18日本代表監督に適任」などと評価する声は多い。その手腕に、多方面から熱い視線が注がれている。

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