タイラギ

 野球のグラブのように大きいので、会場でひときわ目立った。浜辺の漁師たちは夏の暑い日、うちわ代わりにあおいでいたのではないか。そんなことを想起させる見事な扇形▲諫早市美術・歴史館で開催中の有明海をテーマにした企画展(森里海を結ぶフォーラム実行委主催)で、高級二枚貝タイラギの貝殻が展示されていた。実物を見たのは十数年ぶり。不漁に苦しむ諫早湾のベテラン漁師に取材したとき以来だ▲貝柱は刺し身やすしネタに。ビラと呼ばれるひも状の部分は庶民価格で鮮魚店などに並んだ。コリコリとした食感で、晩酌のお供にしていた人も多いのでは▲有明海・諫早湾は全国有数の漁場として知られ、地元では割と身近な食材だったはずだが、最近は食することも、貝殻を目にする機会もめったにない▲諫早湾の閉め切り前後から生息数が激減し、休漁になって久しい。全身を厚く覆った潜水服で真冬の海に潜り、空気は船上からホースで送り込む。命懸けの漁だが、かつての最盛期を振り返る漁師の目は輝いていた▲資源回復に向けた取り組みは国や県レベルで進んでいるが、今も漁再開には至っていない。地域で脈々と受け継がれてきた潜りの技術も存続の危機にある。内湾の豊かな恵みと伝統の漁法。どちらも次世代につながねばならない。(真)

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