ニッサン表彰台独占を許したホンダとTGRの見解と課題。SUGOから過熱する新たな開発競争【第3戦鈴鹿GT500】

 2021年シーズンも折り返しを迎えた8月のスーパーGT第3戦。今季“唯一”となった鈴鹿サーキットでの勝負は、決勝で「下馬評どおり」の相性と強さを見せつけたニッサン陣営が表彰台を占拠する快心のレースを披露した。

 さらに前日予選では、ここがホームコースだけに「車体開発としても鈴鹿は重点的なサーキットとして取り組んできた(ホンダ徃西友宏氏)」というホンダ陣営が、環境条件とタイヤ特性のマッチングを含め、ダンロップ装着組の2台がフロントロウを独占するなど純粋なスピードで結果を残している。

 その一方で、トヨタ陣営の初日は19号車WedsSport ADVAN GR Supraの予選9番手を最上位に、サクセスウエイト(SW)搭載により燃料流量リストリクターのランクダウン領域に入っていた14号車ENEOS X PRIME GR Supraや36、37号車のTOM’S勢のみならず、GR Supra全車がQ1敗退という衝撃の結果に終わった。

 FR統一2年目のGT500クラス車両開発の成果を占う前半戦総括の1戦として眺めると、後半戦に向け大きな不安材料とも見えるまさかの状況に対し、トヨタの車両開発を率いるTRD湯浅和基氏は「なかなか考えてたとおりのスピードが得られてない、という状況でした」と、予想外の厳しい展開になった週末を振り返った。

「そこがクルマなのかタイヤなのか、まだデータを検証しなきゃいけないですけど、全体に狙っていたグリップが得られなかった。それは主に(旋回区間である)セクター1、2の話で、パワー勝負のセクター3や、ブレーキング勝負のセクター4などではそんなに差がなかったと思ってます。なので『曲げ方』なのか、もうちょっとタイヤとよく相談した上での曲げる方法、そこが少し足りなかったのかなぁ……と」

 開幕からの前半戦を思い起こせば、中低速テクニカルレイアウトの岡山国際サーキットでは、陣営内の全6台が予選Q2に進出し、ポールポジションから5番グリッドまでを独占。決勝でも“トヨタ勢のみ”の優勝争いを繰り広げ、上位4台がGR Supraという劇的なオープニングレースを飾った。

 続く5月ゴールデンウイーク開催の富士500km戦では、初導入のフルコースイエロー(FCY)や路面温度変化の大きい3スティント勝負の末に、17号車Astemo NSX-GTに勝利こそ譲りはしたものの、14号車ENEOS X PRIME GR Supraと37号車KeePer TOM’S GR Supraが表彰台を獲得。

 そして特徴的な“レイクアングル”を採用するセットアップ面での背反から「ブレーキング時の安定性に難があった」ことで、課題としていたストップ・アンド・ゴーのツインリンクもてぎでも、セットのバリエーションを増やす対策を施すと同時に、失われたフロント荷重をタイヤ開発で補う方策も採り入れ、GT300クラス側のユーザーも含め「コーナーミッドでのアンダーが軽減された」との声も挙がるヨコハマタイヤの進化も加わり、19号車が優勝争いを繰り広げての2位を得ていた。

 そんな流れにあって、ここ鈴鹿での初日走り出しは従来より課題として来た『低ドラッグ追求型による相対的なフロントダウンフォースの少なさ』が影響したようにも見受けられ、天候による予想外の低気温(低路温)条件もあり、公式練習では“フロントダウンフォース至上主義”のNSX-GTに対し、GR Supra勢は逆バンクを抜けてダンロップコーナーへの切り返しで車体が“ズレ”ていくような動きも見せていた。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)

「もちろん、レイクを減らすセッティングでアンダーステアが増えるのは、まあ誰が考えてもそうなんですけど、そうならないような準備はして来ました」と続ける湯浅氏。

「サスペンションセッティングはチームの皆さんとも相談したり変更して『これなら曲がるね』っていうセットを出して来てる。なのでブレーキングも行けて、本当は曲がるところも速いハズ……だったんですが。実際は、言うなればヨコのグリップが上手く出せてない。イメージで言えば『引っ掛からない』という感じかな?」

 しかし、前日よりわずかながら路温上昇があった決勝では、予選12番手だった36号車au TOM’S GR Supraが5位にまでカムバック。一方でホンダ陣営も似た条件から予選11番手だった1号車STANLEY NSX-GTが4位に浮上し、17号車も6位まで順位を取り戻すなど、シリーズ争い的にはがっぷり四つ、五分五分の状況に持ち込んでいる。

 ここから第5戦SUGO、第6戦オートポリスと、鈴鹿とは路面条件が異なるとはいえ、中高速コーナーで高い旋回性能が要求されるコースが続く。このふたつのトラックは昨季開催がなかったことから、現在の2020年規定車にとっては初見参となり「だからこそ、開発側勝負の側面が大きくなる」と湯浅氏。そしてエンジン面では、陣営やチームにより年間2基目の投入も見込まれる。

「今回予選は『アレ?』って感じでしたけど、決勝は追い上げて行けたのでそんなに悲観はしていません。ニッサンさんとのタイム差なんかも分析しながら、自分たちの立ち位置をもう一回振り返って、さてどうやって手を入れようか、ってのは考えます」と湯浅氏が語れば、同じくTRDのエンジン開発責任者である佐々木孝博氏も「今回で(1基目は)お役御免のつもりで使ってます。最高速も僕らのデータ解析だと優位性はまだあると思ってますし、この次は運用面での懸念がまったく必要ないエンジンを用意してます。シチュエーションによってはもっともっと(パワーを)出せるエンジン、っていう風にはしています」と言い切る。

「まあ、思いっきり期待してください……と言いたいですけど、燃リスがだいぶついてくるので、残りの2戦(もてぎ、富士)に向けて頑張ります、って感じですね(笑)」とエクスキューズを入れる佐々木氏の言葉どおり、上位勢は開幕から全戦ポイント獲得を果たしている3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rを含め、ランキング7位までがランクダウン領域に入る。

 ホンダのGT500開発を牽引する佐伯昌浩LPLも「我々にとってはFR車両での初めてのSUGOになるので、実際には行ってみないと分からない。今年、FRで初めて走った岡山でも上手くまとめ切れない部分があったので、そこに対してフリー走行1発目で上手くまとめ切れるかな、っていうのが若干心配してるところ」と語るとおり、シリーズを睨んだ勝負の行方は、秋の“初モノ2連戦”が大きなカギを握りそうだ。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)

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