逆転サヨナラ

 ここ1年数カ月のうちに、見たことのない、静けさに包まれた光景を私たちは目にしてきた。人影まばらな繁華街。帰省シーズンも人けのない駅のホーム。無観客の東京五輪。言うまでもなく、どれもコロナ禍がなければ見るはずもなかった▲全国高校野球選手権大会でも、観客席でメガホンを打ち鳴らして応援するが、声は発しないチームメートたちの姿をテレビで見る。一打の音がやけに大きい▲また再び見ることのできた光景もある。昨年の大会は中止され、甲子園が夢と消えて悔し涙を流す選手の姿は、見ていて胸に重かった。今年は勝って泣き、負けて涙する球児たちの姿に再び出会う▲初回に先制。7回、勝ち越される。8回、同点に追い付き、延長10回表、ついに勝ち越し。気の抜けないシーソーゲームだった。8強入りを懸けた長崎商の戦いは「いける」と思ったその後、10回裏に惜しくも逆転サヨナラ負けを喫した▲1、2回戦は打ち勝った。3回戦は好勝負と呼ぶにふさわしい。だからこそ「力を出しきった。悔いはない」のか、「あと一歩。悔やまれる」のか。思いは測りかねるが、どの涙も忘れることはあるまい▲〈サヨナラといふ勝ち方と負け方がありて真夏の雲流れゆく〉小笠原和幸。涙を合図に、残暑の日差しはかすかに衰え、夏がゆく。(徹)

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