中国は世界経済をけん引できなくなる?原因となる3つの変調を読み解く

新型コロナウイルスの感染再拡大と行動制限強化、製造業活動の減速など、足元では中国経済の変調が浮き彫りになっています。こうした変調の要因を紐解き、中国景気の先行きを考えます。


7月の中国経済は総じて景気鈍化

7月中旬以降、中国では国内各地で新型コロナウイルスのデルタ株とみられる感染が拡大し、省を跨いだ移動や国内旅行などに制限が掛かっている状況となっています。6月下旬にも同様の措置が広東省でとられましたが、今回は広範囲に及んでおり、中国景気への大きな下押し圧力になるとの懸念が広がっています。

こうした中で公表された7月分の主要経済統計は、いずれも市場予想から下振れ、中国景気の悪化懸念が一段と強く意識されました。経済統計の中身を見ると、特に目立ったのが消費の減速で、外食サービス消費の鈍化など行動制限強化の影響がうかがえます。

その他、不動産投資の減速や自動車製造業の生産が3ヵ月連続で前年比減少するなど、行動制限以外の要因によるとみられる下振れもあり、中国景気の悪化を示唆する内容が多く見受けられます。

先進各国と比べて感染者数が少ないものの、中国当局が「ゼロコロナ」を目指すという新型コロナウイルス対策方針を掲げているため、比較的厳格な感染抑制措置が採られており、8月の経済統計は更なる下振れが想定されます。

中国経済の変調を引き起こした3つの要因

足元の中国経済の変調を紐解くと、(1)当局が行ってきた政策正常化に伴う景気鈍化、(2)供給制約の悪影響、(3)足元の新型コロナ対応による経済活動抑制という3つの原因が浮かび上がります。

中国当局は早期に経済回復を果たしたことで、新型コロナ対応からの脱却を進め、その過程で不動産政策の厳格化や信用の伸び抑制を行っており、年央以降の中国経済は成長率の鈍化が進むというのが今年の前半の大方の見方でした。

こうした中、生産活動に必要な原材料価格の高騰や他国での感染拡大に伴って主要部品の供給・物流の滞りはじめ、景気の波を作り出す製造業の活動に下押し圧力が掛かっています。さらに、7月下旬以降の国内デルタ株感染拡大と行動制限強化は前述のように広範囲に影響を及ぼしており、回復の兆しが見られたサービス消費に影を落としています。

つまり、現在の中国経済は、元より力強さの見られない状況が想定されていた中で、製造業への下押し圧力増大とサービス業の活動抑制が同時に発生し、景気への下押し圧力がより強まっている状況と言えるでしょう。

世界経済のけん引役としての姿は期待薄

中国経済の変調が3つの要因により発生していることを示しましたが、これらのうち(3)足元のコロナ対応による経済活動抑制は、一過性の側面が強いと言えます。国内の感染は現状では、8月中旬にピークアウトしており、このまま感染拡大が抑えられれば、行動制限によって抑制されていたサービス消費のリバウンドがある程度は期待できます。

一方で、(2)供給制約の悪影響は、原材料高および部品の供給不足共に短期的な解消は見込みづらいと考えています。原材料は需要が底堅く、価格の高止まりが続く可能性があります。

また、半導体など部品の供給不足に対しては、設備投資が進んでいるもようですが、積み上がった受注分への対応もあり、納期が過去の水準まで短期化するには時間がかかるでしょう。

即ち、マージン縮小や生産の抑制など製造業企業への圧力が長引くことを意味しており、この状況が長期化する場合、当局は圧力を受けている分野への追加支援を行う可能性が高いでしょう。

7月に入り当局は、預金準備率の引き下げや下期の経済政策方針として改めて景気安定化に向けた施策の実施を示すなど、景気悪化への対処として圧力を受けている分野へ支援を実施する方向に舵を切っています。その上で、不動産やIT・ハイテク企業などを対象に、引き締めるべきところは締めるという姿勢を堅持しています。

従って、筆者は中国経済の変調を助長していた感染拡大が落ち着き、当局の政策姿勢も景気安定化に向けた措置実施へ傾いた以上、早晩、ある程度景気が安定方向へ向かうと考えています。

ただし、厳格な不動産政策の下、同分野の投資減速という景気への大きな下押し圧力が残っているほか、今後も感染抑制のために厳格な行動制限措置が散発的に導入され、景気が都度悪化する可能性が高い状況でもあります。また、製造業を苦しめる供給制約も引き続き残っています。

以上のことからまとめると、現在の中国景気を下押しする要因は薄れつつあり、これ以上の過度な懸念は必要ないと考えられる一方で、先行きの明るい材料はさほどありません。当局が景気浮揚に乗り気ではないことも加味すると、筆者は、中国経済に世界経済のけん引役としての役割は期待しづらくなっていると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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