「在籍型出向」で雇用維持へ 周知と活用に課題 コロナ禍の雇用対応

ホテルでの経験を生かし、生徒送迎を担当する佐藤さん=長崎市星取1丁目、あたご自動車学校

 仕事が減った企業が従業員を一時的に他社に出向させて雇用維持を図る「在籍型出向」が、新型コロナウイルス禍で悪化した雇用への対応策として推進されている。国や長崎県は新たな助成制度を設けて積極利用を呼び掛け、県内でも取り組む事業者がいる一方、まだ消極的な事業者も多く、周知と活用に課題がある。

 在籍型出向は、コロナ禍の前からある働き方。国は今年2月、新型コロナの影響を受けた事業者を対象に、在籍型出向を利用しやすくして雇用維持を図ろうと「産業雇用安定助成金」を新設。賃金や教育訓練費など出向に伴う経費を出向元と出向先に助成している。
 「培ってきた接客マナーを生かせてうれしい」。あたご自動車学校(長崎市)で、生徒送迎を担う佐藤勉さん(58)は充実感をにじませマイクロバスのハンドルを握る。ルークプラザホテル(同市)で送迎を担い15年。今年7月から1年間、同校に出向している。
 同ホテルを運営するブライダルプロデュース(横浜市)によると、コロナ禍で宿泊、婚礼の需要が激減。昨春以降は、休業手当が一部穴埋めされる雇用調整助成金(雇調金)のコロナ特例を活用して社員を休ませ、雇用を維持してきた。だが、感染は拡大の一途。特例がいつまで続くかも見通せず「先を見据え備えておこう」と今春、在籍型出向に踏み切った。

 事業者間の雇用を仲介する公益財団法人産業雇用安定センター長崎事務所に相談し、送迎ドライバーの求人を出していた同校とマッチングが実現。同校も「教育し直す必要がなく、生徒への応対も丁寧。いい人材を確保できた」と喜ぶ。
 佐藤さんは「休んでいた間は人と会えずつらかった。安全運転をあらためて意識しながら仕事ができ、その経験をホテルに持ち帰れる。わたしにはプラスばかり」とメリットを実感している。同ホテルからは、佐藤さんのほか40~50代の2人も長崎市内の老舗飲食店「吉宗」と「ブライダルコスチュームスエヒロ」に出向中だ。
 コロナ禍に伴い同長崎事務所が仲介した在籍型出向は、2020年度5件20人、本年度(7月末現在)3件8人。厚生労働省からの通知を受け、長崎労働局が6月、県と同長崎事務所、経済団体などと支援協議会を立ち上げ、労働者のモチベーション維持、人材育成効果など意義を周知したが、事業者の反応は鈍い。
 同長崎事務所は、在籍型出向をするには就業規則変更などの手間が生じるため、事業者は雇調金を活用して休ませる方を選び、出向には消極的と分析。田村真一所長は「コロナ収束後も元の日本には戻らない可能性が高い。今のうちに出向できる仕組みを整えるなど、できることをやっておくことが大事」と語る。
 県は在籍型出向を後押ししようと国の支給額に上乗せ助成しているほか、社会保険労務士を事業者に無料で派遣してサポート。出向元、出向先それぞれが登録できる支援サイトの今秋開設を目指し、準備を進めている。

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